福島第1原発事故で、大量の高濃度放射能汚染水が海洋流出していた重大事実を東京電力が昨年(2013年)7月に初めて認めてから1年・・。国と東電が打ち出した汚染水対策はいずれも難航しています。その典型が、地下水流入を抑えるための「凍土遮水壁」(凍土壁)。凍土の壁をつくり、水をさえぎる計画ですが、実現性さえ危ぶまれる状況です。 (細川豊史)
「凍結が進まないため、トレンチに氷を8トン入れた。ドライアイスも入れたが、ガスが発生して浮き上がってしまい、凍結効果が得られない」・・。2、3号機タービン建屋から海側に伸びる地下トレンチ(トンネル)にたまっている高濃度放射能汚染水1万1000トンを取り除くため、建屋とトレンチの接続部を凍結させ、止水する工事が難航。東電は苦しい説明を続けています。
前提工事が難航
いまだに目量400トンもの地下水が原子炉建屋地下に流入して増え続ける汚染水。トレンチにたまった汚染水は早くから海に流出しており、地下水の汚染源の可能性も疑われており、その除去は急務。しかも、トレンチ内に汚染水が残っていると凍土壁工事の障害となるため、この問題が解決しないと、来年3月凍結開始をめざす凍土壁の工期もずれ込み、計画が前提からつまずく形になります。
トレンチ内の汚染水の凍結は、トレンチと建屋との接続部に穴を掘って凍結管を入れ、水を凍らせる計画ですが、4月末の工事開始から3ヵ月たっても凍結できていません。東電は、凍結にはさらに数力月かかるとしています。
6月の国の原子力規制委員会の会合では委員から「ここがうまくいかなくて、凍土壁がどうこうと言っている場合ではない」との発言が出ました。
多くの不安要素
全長1・5キロメートルに1メートル間隔で深さ30メートルの穴を掘り、凍結管で周囲の土を少なくとも6年間凍らせ続ける・・。凍土壁は、トンネル工事現場で一時的に使われてきた技術ですが、これほど大規模に長期間凍結を続ける工事は世界的にも前代未聞。政府は建設費319億円もの国費投入を決めています。そこには多くの課題、不安要素があります。
「凍土壁は本当に凍るのか、どこまで効果があるのかわかりません。見えない部分が多過ぎます」。こう懸念を示すのは、地下水盆管理学などが専門で、福島県の廃炉安全監視協議会専門委員を務める柴崎直明福島大学教授です。
柴崎教授によると、原発の地下の地質、地層は均一ではなく、乱れた状態にあります。熱の伝わり方も地層によって違います。また、すき間、亀裂には水が集まり、流速が速まります。水は流れが速いと凍りにくくなります。
「きれいに壁ができるのでなく、まだら状に凍るのではないか。先に凍ったところを地下水がよけるように通って抜け道ができて、いつまでたっても凍らないところができてしまうのでは」
東電は数メートルおきに観測点を設けて凍土が凍っているかを監視するとしていますが、それで十分なのか。凍土壁が完成した後、原子炉建屋地下の高濃度汚染水が地下水に逆流しないための水位管理がうまくできるのか。停電して溶解してしまった場合、どんな影響が出るか。これだけ大規模な凍土を凍らせ続けるのに、どれだけの電力コストがかかるのか。メンテナンスは・・。疑問は尽きません。
「確実な工法を」
日本陸水学会は昨年9月の大会で、凍土壁に突然大きな裂け目が入る可能性や、水の動きによる土壌隆起が起きて建造物が傾く危険性など、「より大きな事故を引き起こす可能性が高い」として他の工法を求める声明を発表しました。
柴崎教授も「堤防やダムをつくる時に使われる、鉄板やセメントで流水する在来工法があります。これだけ危険な放射性物質がある場所では、実績がある確実な工法で行うべきではないでしょうか」と話します。
(つづく)
打つ手 どれも難航
福島第1原発には7月現在、55万トンの汚染水タンクが林立。すでに51万トン強の汚染水が貯蔵されており、タンクや配管、周囲を囲うせきからの汚染水漏れ事故が相次いでいます。東電は漏れにくいタイプのタンクに置き換え、今年度末には80万トンに増設する計画です。
タンクに貯蔵されている汚染水のほか、1〜4号機原子炉建屋地下などに、処理前の高濃度放射能汚染水が10万トン規模もたまっており、汚染水は毎日400トン増え続けています。しかし高濃度放射能汚染水から、トリチウム(3重水素)以外の多くの放射性物質を取り除く多核種除去設備(ALPS)はトラブルが続いたほか、当初見込まれた除去性能が出ておらず、本格運転に至っていません。
汚染水の増加を抑えるため、地下水が建屋地下に入る前にくみ上げて海に流す地下水バイパス計画は、一つの井戸の水が基準値を超え続け、他の井戸の水で薄めて海へ放出している状態です。しかし、建屋に流入する地下水を抑制する効果は、放出開始から2ヵ月以上たちましたが、みえていません。
汚染水の処理、増加抑制のために国と東電が相次いで出してきた″切り札″は、いずれも課題を抱えています。
(「しんぶん赤旗」2014年8月8日より転載)