原子力規制委員会は7月16日、新たな規制基準施行後初となる、九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)1、2号機の「審査書案」をまとめました。規制委の求めに「適合」しているというだけの内容。新たな「安全神話」を生み出しかねません。 (「原発」取材班)
予知できないのに「可能性は小」・・巨大噴火
審査書案では、地震や津波への備えのほか、新たに規制要求となった過酷事故(シビアアクシデント)を含む重大事故対策などそれぞれに対して、規制基準の要求を満たしているかを評価しています。
規制委の田中俊一委員長は国会や会見で、規制基準を満たした原発でも「絶対に安全であることを意味しない」と繰り返し述べています。
川内原発の周辺には3万年前の姶良(あいら)カルデラの噴火で火砕流が到達した可能性を九電が認めています。にもかかわらず九電は、川内原発を運転する期間に巨大噴火が起こる可能性が「十分小さい」と主張。規制委もモニタリングで監視することで、これを容認しました。
これに対し多くの火山研究者から異論がでています。火山噴火予知連会長の藤井敏嗣・東京大学名誉教授は、「川内原発に影響を与えるような超巨大噴火を予知することは、今の火山学では無理です」と断言しています。
また、敷地近くに新たに活断層の存在も疑われていますが、審査書案ではまったくふれられていません。
福島第1原発では、1日約400トンの地下水が建屋に流入し、汚染水を増大させています。川内原発でも1日に約300トンの水が流入していることがわかっています。しかし、規制規準の審査で、汚染水対策は検討されていません。
未策定でも審査対象にさえせず・・避難計画
重大なのは、審査の対象に自治体の防災計画が入っておらず、自治体任せとなっていることです。
伊藤祐一郎鹿児島県知事は「要援護者の避難計画は10キロ(圏内)で十分。30キロは現実的ではなく不可能」(6月13日)と断言し、10~30キロの要援護者の避難計画の策定は見通しすらありません。この地域には227の対象施設があります。
アメリカでも住民の被ばくを避ける対策は規制の対象になっています。避難計画について米原子力規制委員会(NRC)の認可を受けない限り、原発を運転できません。日本の対応は重大な欠陥です。
“根拠のない楽観論”の指摘無視・・大飯判決
川内原発の基準地震動(想定される地震の最大の揺れ)は、九電が当初申請した540ガルから、審査会合の中で620ガルに引き上げました。この時、審査会合で、九電の担当者は「えいやっと大きくした」と繰り返しました。これを審査書案は「最新の科学的・技術的知見を踏まえ…規制に適合している」などとしました。
原発の「安全神話」を断罪し大飯原発の運転差し止めを求めた福井地裁判決(5月21日)では、「全国で20カ所にも満たない原発のうち4つの原発に5回にわたり想定した地震動を超える地震が10年足らずの間に到来しているという事実を重視すべき」だと指摘し、原発の危険をみない楽観論を次のように戒めています。
「この地震大国日本において、基準地震動を超える地震が大飯原発に到来しないというのは根拠のない楽観的見通しにしかすぎない」、このような原発のあり方は「本質的な危険性についてあまりにも楽観的といわざるを得ない」。
審査書案のポイント
【地震】基準地震動を540ガルから620ガルに引き上げた
【津波】遡上(そじょう)波の高さを海抜4メートル程度から6メートルに引き上げた。これに伴う対策として海水ポンプ周囲に防護壁を設置
【火山】半径160キロメートル圏内の39火山のうち、14火山で活動の可能性があるが、破局的噴火の可能性は「十分小さい」。5カルデラを監視対象にし、噴火の可能性があればく原子炉の運転停止や燃料の取り出しを実施する
【竜巻】最大風速秒速100メートルの竜巻を想定。飛来物となる可能性のあるものを固定する
【重大事故】原子炉格納容器内の冷却機能が喪失した場合も損傷を防止するため、複数の冷却系統を設け、消防車の配備などの対策をとる。水素爆発対策では、水素低減設備を整備。大型航空機の衝突やテロ対策では、手順書や資機材などを整備
福島の教訓全く生かさず・・原発問題住民運動全国連絡センター筆頭代表委員伊東達也さん
福島では事故から3年4ヵ月たっても容易ならざる事態にあります。避難地域の面積は依然として東京都の半分もあります。私の住むいわき市では、数千人が戻れない。福島県の震災関連死は1730人に上り、これは最も多かった時の避難者数の1%近くになります。重大な事故が起これば、たとえ逃げおおせたとしても、そういう危険があることを福島原発事故が教えています。ましてや逃げ切れないなら大問題でしょう。
審査で避難計画が対象になっていないなんて、東京電力福島第1原発事故の教訓を全く生かしていません。
福島原発の事故原因も全容が明らかになっていないのに、基準に適合したといっても、事故の教訓を踏まえたものになるはずがありません。
再稼働に対し、多くの国民が反対しています。たとえ原子力規制委員会が「基準に適合した」と了承しようと、安倍政権が「世界で最も厳しい基準」だと言おうと、国民の多数は真に受けないところにきています。実際に再稼働させないため、今後も粘り強く運動を進めます。
「しんぶん赤旗」2014年7月17日付けより転載