原子力規制委員会で原発の再稼働の前提となる新しい規制基準への適合性審査を受けている12原発19基のうち、九州電力川内原発(鹿児島県)1、2号機について規制委による初めての審査書案が近くまとめられる見通しです。しかし、住民の安全を置き去りにするなど規制基準自体の問題点が明らかになっており、「世界で最も厳しい基準」といって安倍政権が、これをテコに再稼働をねらうなど許されません。 (松沼環)
規制基準は、東京電力福島第1原発事故のような炉心溶融を伴う重大事故の際、原子炉格納容器が壊れるのを防ぐために、圧力を下げて放射性物質を放出するベント(排気)を行うとしており、放射性物質の放出が前提です。ところが、事故時の周辺住民の避難計画は自治体任せで、計画の実効性は規制基準の審査の対象になっていません。住民が安全に避難できるのか、この肝心な問題を抜いたまま審査が実施されているのです。
関西電力大飯原発の運転差し止めを命じた福井地裁判決(5月21日)でも規制基準を問題にしています。基準には、いくつかの対策が盛り込まれていないため、「問題点が解消されることがないまま」審査を通過し、稼働に至る可能性があると指摘しています。
施行から1年たった規制基準。当初、最初の審査合格は「半年程度」ともいわれていましたが、規制庁が「総力を結集し」審査書案の作成に取り組んでいる川内原発1、2号機以外、審査の見通しが立った原発はありません。安全性に対する電力会社の姿勢が旧態依然としているからです。
それは、多くの電力会社が、福島第1原発の事故前と同じ基準地震動(想定される最大の地震動)で申請を提出したことにも表れました。そのため公開の審査会合では、評価の甘さが指摘され、ほとんどの原発で見直されています。
規制委の田中俊一委員長が先月、電力会社に対し、「審査の値踏みをするような申請は絶対に避けていただきたい」と発言するほどです。
一方、電力会社は経済団体などを通じて、「一刻も早い再稼働を」と、規制委に審査を急ぐよう圧力をかけ続けてきました。安全より利益優先の姿勢を露骨に表しています。
原発に妥協する基準・・東京大学名誉教授(金属材料学)井野博満さん
新規制基準は不十分であり、基準を満たした原発が安全だとはとても言えない。規制委員会自体も安全基準でないと言っている。
もともと新規制基準は、既存の原発を動かすための基準。世界最高水準などと言っていますが、世界の先進的な原発で炉心が溶融する事故に備えて設置されているコアキャッチャーも要求されていない、格納容器も2重にしていません。今までの原発に妥協する形で規制基準が作られています。しかもこのままでは新増設にもこの基準が適用されてしまいます。
この間、一番はっきりしてきたのは、防災計画が規制基準に入っていないという問題です。防災計画は、国際的な安全確保の考え方では(多重防護のうち)第5層と位置づけられています。それを審査と引き離し、自治体がやるものだとなっている。そこが含まれなければ、本当の意味での、放射能の被害を減らすために最大限努力するということにならない。そこの矛盾があらわになってきています。
(「しんぶん赤旗」2014年7月10日より転載)