東京電力は、福島第1原発の「地下水バイパス」による海への放水を開始しました。計画は、汚染水増加への抑制効果が期待される一方、本当に効果が得られるのかは未知数。また、地下水の動きが変わることで悪影響が生じたり、取水している地下水そのものの汚染の深刻化など、懸念材料が残っています。
現在、1日的400トンの地下水が1〜4号機建屋地下に流れ込んでおり、溶融燃料を冷却するために原子炉に注入している水と混ざって高濃度の放射能汚染水増加の原因となっています。東電は、地下水バイパス計画で12本の井戸から1日1000トンの地下水をくみ上げることで、汚染水の増加を数十〜100トンほど抑制できると予測しています。ただ東電は、効果の検証には3〜6カ月程度かかるとみています。
一方、くみ上げによって地下水の水位が低下することで、建屋内の汚染水が流出することも心配されるほか、タンクや配管からの漏えいなど、運用上の課題もあります。
さらに、くみ上げ用井戸の上流側には汚染水タンク群があり、続発する流出事故による汚染の拡大が懸念されます。最近、上流側の地下水でトリチウム(3重水素)濃度の上昇傾向がみられています。地下水の汚染が深刻化すれば、計画そのものの前提が崩れます。
実際、4月には井戸の一つで東電の放出基準(1リットル当たり1500ベクレル)を超える同1600ベクレルが検出されています。東電は、12本の井戸でくみ上げた水を一時貯蔵タンクにためて基準値を下回れば放出する方針。今後も一つの井戸で基準値を超えても薄められて放出される可能性があり、こうした運用の是非も問われます。
地下水バイパス計画は、汚染水の増加でタンク増設がひっ迫する深刻な事態の象徴ともいえます。地元の漁業者が「苦渋の決断」として容認した背景には「廃炉の一助となるよう」という複雑な思いがあります。一方で東電は弁の操作ミスによるタンクからの汚染水漏れなどを繰り返しており、国民のなかに不安と不信感が広がっています。東電は、国民や漁業者を裏切らず、基準の厳守や風評被害への補償などを求める声にこたえる重大な責任があります。
国は東電まかせにせず、計画の効果と悪影響、安全性の面で厳格に監視・検証し、適切な判断を下すことが求められています。
(中村秀生)
(「しんぶん赤旗」2014年5月22日より転載)