茨城県東海村の実験施設(J‐PARC)では放射能漏れ事故の原因となった陽子ビームの誤作動を想定せず、放射性物質のフィルターを換気扇に設置しないなど、十分な漏えい防止策を取っていなかったことが5月25日、分かりました。
事故があった施設では、光速近くまで加速した陽子を金属などの原子核に衝突させ、そのエネルギーで発生するさまざまな素粒子を観測します。衝突で原子核はバラバラに壊れ、放射線を発する不安定な原子核(放射性核種)が生じる恐れがあるため、一定の遮蔽(しゃへい)機能や外部に放射性物質を出さないための機能は考慮されています。
しかし、今回のようにビームの出力が予期せず強くなり標的の金属が一気に蒸発し、通常は金属の中にとどまる放射性物質が装置外に漏れ出す事態までは想定されていませんでした。
ビームの出力異常で装置が停止した際も、電圧の変化などで安全装置が働いて停止したと思い込み、ビームの異常を想定したり、施設内の放射線量や放射性物質を詳しく調べたりする発想はなかったといいます。
また、施設内は放射性物質の漏えい防止のため、屋外よりも気圧がやや低い状態(負圧)に保たれていますが、原発などで換気扇や排気口に設置される放射性物質を吸着するフィルター類は未設置。運用に関するマニュアルも準備されていませんでした。
「通報が遅い」・・茨城県が会見
茨城県東海村の実験施設(J‐PARC)の放射性物質漏れ事故を受け、茨城県は25日未明に緊急の記者会見を開き、服部隆全原子力安全対策課長は「発生から通報までに1日半かかっている。遅いのではないか」と述べました。
事故は23日正午前に発生しましたが、県に連絡が入ったのは24日午後9時40分ごろでした。
服部課長は「経過の途中で県に通報してもよかったのではないか。安全に対する認識がどうだったのか、詳しく聞きたい」と強い口調で話しました。
施設内部への立ち入り調査・・茨城県・周辺自治体
茨城県東海村の実験施設(J‐PARC)の放射能漏れ事故を受け、県と施設周辺7自治体の担当者が25日午後、事故が起きた施設内部への立ち入り調査を実施し、関係者から装置の位置関係や事故当時の状況などの説明を受けました。
調査後、記者団の取材に応じた松本周一・県原子力安全対策謀技佐は、施設側が換気扇を回したことで外部に放射性物質が放出されたことについて、「非常に重大なことで、詳細な報告を求めたい」としました。県は調査結果を持ち帰り、今後の対応を検討する方針です。