「東電任せにせず、国として緊張感を持って対応していく必要がある。政府を挙げて全力で取り組んでいく」。安倍晋三首相は8月28日、訪問先のカタールの首都ドーハで、非常事態となっている東京電力福島第1原発の高濃度汚染水漏れへの対応についてこう述べました。しかし、いまだに政府は現地対策本部すら設けず、東電任せのまま。政府が全責任を負って抜本対策を打ち出すことが求められています。
(林信誠)
防水シート破損→地下貯水槽漏れ→移送先でも
これまでの政府の対応は、危機感にほど遠い無責任さです。
1日400トンあまりも増え続ける汚染水に対応するため、東電は地上の貯水タンクに加え地下貯水槽を設置。しかし、4月に入ってから防水シートの破損による地下貯水槽の汚染水漏れが相次いで発覚し、地下貯水槽の約2万4000トンの汚染水をすべて地上タンクに移すことを決めました。移送が完了したと発表されたのは6月9日でしたが、移送完了前の同5日には、早くも移送先の地上タンクの鋼板つなぎ目部分から水漏れが発覚しました。
総点検が必要
日本共産党の塩川鉄也衆院議員は4月10日の経済産業委員会で、タンクの耐用年数が10年とされているのに、つなぎ目に使われているゴムパッキンの耐用年数は5年しかないことを指摘し、「総点検が必要だ」と主張。地下貯水槽の水漏れ事故について「事故から2年もたつのに、事故収束や安全確保を東電任せにしてきたことが今回の事故につながった」とただしていました。
これに対し、原子力規制庁の山本哲也審議官は、地上タンクについて「東京電力が監視を適切に行っているかどうか確認している」「経年劣化を踏まえた保守管理計画を東京電力でしっかりつくらせて対応するよう指示をしている」と答えるだけでした。
「レベル3」に
政府の東電任せの姿勢を示したのが、汚染水対策処理委員会です。4月26日に第1回会合を開いたものの、5月30日以降は開かれず、その対応を批判した本紙報道などを受けて8月8日にようやく再開。その直後、タンクの汚染水漏れが発覚し、無責任な姿勢が浮き彫りになりました。
政府が東電の無策を放置するなかで、東電の対応も後手後手で当事者能力を欠いていました。地上タンクの保守点検計画には巡視点検が盛り込まれたものの、930個のタンクを2人で巡回監視するという大ざっぱなもの。個々のタンクには水位計も設置されず、漏えい検知についても「検討していく」としただけでした。
8月19日には、地上タンクで300トンの高濃度汚染水が流出し、その後、その多くが側溝を通じて海に流れ出したことが明らかになりました。
原子力規制委員会は8月28日、トラブルの深刻さを示す国際原子力事故評価尺度(INES)を「レベル1」(逸脱)から「レベル3」(重大な異常事象)に引き上げると発表しました。
モグラたたき
このような事態を招いた最大の原因は、安倍首相自身が事故は「収束したとはいえない」と認めながら、民主党・野田政権当時に出された「収束宣言」(2011年12月16日)を撤回せず、真剣な対策を講じてこなかったからです。
事故「収束宣言」が出たことで原発の再稼働と海外輸出を優先する動きが加速。原子力規制委員会・規制庁も再稼働のための新規制基準づくりや安全審査を優先し、汚染水対策は東電任せとなりました。
茂木敏充経産相は8月26日のNHK番組で、「汚染水の問題は、これまで東電任せ、モグラたたきのような状況が続いてきた」と東電任せの実態を認めました。一方で、「もっと国が早く出てくるべきではなかったか」との指摘には、「昨年(2012年)まで政権にいなかった」「(東電の)情報が後手後手」などの言い訳に終始しました。
五輪開催地決定前 自民、腰引ける
安倍内閣は、2020年五輪開催地を決定する国際オリンピック委員会(IOC)総会(7日)を間近に控え、今週にも“緊急対策”を打ち出すとしています。
ところが国会では自民党が、この問題を審議する閉会中審査の日程について政府の汚染水対策が出てから協議したいと腰が引けた態度です。
日本共産党の塩川鉄也衆院議員と倉林明子参院議員は先々週、衆参の経済産業委員会での閉会中審査開催を両委員長に申し入れ。穀田恵二国対委員長は28日の定例記者会見で、閉会中審査の開催を改めて各党によびかけました。
30日の衆院経産委理事懇談会で野党側が同審査の早期実施を要求。しかし、与党との折り合いがつかず、理事懇では9月中旬の福島第1原発視察の日程だけ決め、審査のスケジュールについては先送りしました。参院経産委でも開催はいまだ決まっていません。
隣国韓国をはじめ、この問題での国際的な関心・懸念が広がっており、国会審議を通じて事態の深刻さを内外に示すことが重要です。