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震災2年6カ月 被災地は今 (1)・・ 医療支援打ち切りの宮城、受診控え広がる 年金2万 医療費1・7万円

未曽有の大災害となった東日本大震災から9月11日で2年6カ月を迎えました。しかし、いまだに約29万人もの被災者が、仮設住宅などでの避難生活を強いられ、生活再建への道は険しいままです。被災地・被災者の厳しい現状と、復興への政治の課題に迫ります。(東日本大震災取材団)

「医療費負担で年金がなくなる」と訴える女性=宮城県石巻市の仮設住宅
「医療費負担で年金がなくなる」と訴える女性=宮城県石巻市の仮設住宅

被災者に対する医療費自己負担の免除が打ち切られた宮城県で、負担を避けて受診を控える患者が出ています。今年4月の支援打ち切りで宮城県沿岸の15市町では、医療機関が患者の診療報酬を自治体に請求する件数が前年同月比で1割近く減少。被災者の健康や生きる権利が奪われています。

宮城県では国民健康保険と後期高齢者医療制度に入る被災者の医療費自己負担(窓口負担)が今年3月まで、国と県の財政負担で免除されてきました。しかし4月、岩手、福島の両県が免除を存続したにもかかわらず、宮城県の村井嘉浩知事は免除を打ち切りました。

石巻市の仮設開成第4団地に住む男性(51)は4月から、糖尿病などで薬代を含めて月1万5千円を負担します。

命にかかわる

震災で失職して短期の仕事を渡り歩き、3月から無収入。「通院しなければ命にかかわる。ためておいた義援金も底をつきそうだ」と打ち明けます。

市内の別の仮設住宅を訪ねると、女性(62)が高血圧やリウマチなど8種の薬袋を示し「年金がほとんど消える」。月2万円の年金に対し、医療費負担は1万7千円です。

同じ仮設の男性(75)は、高血圧での毎月の通院を減らしました。「金がかかるから、4月以降は2回しか受診していない」

月に1度の健康相談会=仙台市太白区の「あすと長町仮設」
月に1度の健康相談会=仙台市太白区の「あすと長町仮設」

被災地全域で

こうした負担増による受診控えは、被災地全域で起きています。

本紙が県内の市町から入手した資料をもとに集計したところ、津波で被災した沿岸15市町のすべてで4月、患者を診察した医療機関から自治体への診療報酬の請求が減少しました。(グラフ)

4月の請求件数は15市町で計58万1869件になり、前年同月の63万6944件と比べて91・3%(マイナス5万5075件)と大幅な減少です。その後も低い水準のままで、受診控えが続きます。

仮設住宅では、県に対して免除の復活を求める声が広がります。7日現在、仮設住宅の自治会長や代表190人が免除復活を求める請願に賛同しています。

医療支援打ち切りの宮城県
脅かされる健康・命・・専門家 「人権の侵害だ」 仮設自治会が連携し県に要望

仙台市太白区、市内最大の233戸が並ぶ「あすと長町仮設」。60歳以上の住人が7割と、高齢者が多い仮設住宅です。

宮城県が今年4月、医療費自己負担の免除や介護利用料減免を打ち切った影響は、この仮設にも広がります。

日本共産党の横田有史県議団長(左)に、医療・介護の負担免除を訴える仮設自治会長ら=9月5日、仙台市
日本共産党の横田有史県議団長(左)に、医療・介護の負担免除を訴える仮設自治会長ら=9月5日、仙台市

影響確実に出る

飯塚正広自治会長は、高齢者が医療や介護を利用しなくなっていると語ります。「影響はゆっくりと、でも確実に出る。5年後、10年後に、国と県はいったい何人殺したのかという話になるだろう」

飯塚さんらはこれまで、孤独死を防ごうと高齢者の見守りや健康支援に取り組んできました。

集会所では月1回、健康相談会が開かれます。血糖値と血圧を測った加藤マツ江さん(79)は、「大病をしてきたから健康が不安。相談会で本当に助かっている」。

相談会を昨年6月から開く宮城厚生協会長町病院の長澤絹代看護部長は、「仮設はストレスや運動不足で体調を崩しやすい。相談会をきっかけに、がんが見つかった人もいる」と支援の必要性を強調します。

医療・介護の負担免除が打ち切られたいま、仮設の住民にとって相談会は「まさに命綱」(飯塚自治会長)です。しかし実際は、こうした支援を受ける仮設はまれ。支援の費用は病院の持ち出しで、行政の助成が一切ありません。

岩手県では継続

気仙沼市最大の「五右衛門ケ原運動場仮設」(170戸)の長井裕子自治会長は、「隣接する岩手県では負担免除が継続だ。地域への愛着を振り切って岩手に引っ越す人まで出ている。国や県は被災地の実態を見るべきだ」と訴えます。

気仙沼市では4月、患者の受診控えによって、医療機関から自治体への国民健康保険の診療報酬請求が前年同月比87・4%に減りました。石巻市も同83・8%、東松島市も同78・1%と大きく減っています。(グラフ)

診療報酬の請求件数は大きく増減しないのが通常です。各医療機関が月単位で請求するため、たとえ患者が月3回の通院を1回に減らしても件数は同じ1件と数えられるからです。減少した件数以上に、受診控えはすすんでいます。

社会保障に詳しい井上英夫金沢大学名誉教授は、「打ち切りは憲法25条が保障する健康権を侵害している。人権の侵害・はく奪と受けとめるべき問題だ」と批判します。

井上氏は、孤独死が多発した阪神・淡路大震災(1995年)と比較しても、宮城県でより深刻な受診抑制や健康悪化が起きるだろうと懸念します。政府が医療費の自己負担を増加させてきたもとでの大震災だからです。

「とりわけ、高齢者の受診抑制そして生命・健康破壊を増やす」と井上氏。阪神・淡路大震災当時、75歳以上は外来で月1000円の定額負担でした。現在は定率1割に負担が増えています。

井上氏は、「いつでも、誰でも、どこでも最高水準の健康を享受できるという健康権の保障が、被災地で特に大事になっている。健康なしには復旧、復興、さらには発展もうまくいかない」と指摘します。

第1「我慢できない」

仙台市の飯塚自治会長、気仙沼市の長井自治会長ら4市9仮設の自治会長は今年6月、「被災者の医療・介護の負担免除を求める請願書」を県議会に提出しました。

請願には、仮設自治会長ら71人の賛同署名もそえました。仮設自治会が市町を超えて連携し、県に要望をあげたのは初めてです。長井自治会長は、「わたしたちは思いを一つにして、手を携えてこの困難を乗り切っていく」といいます。

7月8日の県議会では請願の採決直前になって、与党・自民党が免除対象者を絞り込むなどの条件をつけて賛成。請願は全会一致で採択されました。

請願紹介議員の一人、日本共産党の横田有史県議団長は、「自治会のみなさんの『もう我慢できない』という運動の広がりが採択を実現した」と語ります。採択後も請願への賛同は広がり、仮設自治会長・代表190人(7日現在)が名を連ねます。

自治会長らのまとめ役を担ってきた支援団体、ライフワークサポート響(ひびき)の阿部泰幸代表は、免除復活のたたかいは、被災地だけの問題ではないと強調します。

「県は被災者を踏み台に、自分のやりたい開発を進めるばかりだ。これから被災するかもしれない全国民のためにも、あしき前例を許してはいけない」

13-09-11gura

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