安倍首相は国際オリンピック委員会(IOC)総会で、東京電力福島第1原発の汚染水問題について「状況はコントロールされている」と説明しました。汚染水の流出と汚染の拡散が止められていないのが現実であり、首相の認識があまりにも軽いことに驚きと怒りを覚えます。しかし、「国際公約」として首相には汚染拡大を防ぐ責任があります。
汚染水は、コントロールどころか制御困難に陥っています。
止まらない流出
4月には地下貯水槽からの汚染水漏れが、6月には建屋海側の地下水汚染が、7月にはその汚染地下水が海に流れ出ていることが明らかになりました。そして8月には、汚染水貯蔵タンクから推定300トンの汚染水が漏れていたことが判明し、その後もタンク表面で高線量の箇所が次々と発見されました。漏えいタンク近傍の地下水では、すでに汚染が確認されています。
政府は今月3日、汚染水問題に関する「基本方針」を決定し、「国が前面に出て」「抜本的な対策を講じる」、「政府が総力をあげて対策を実施する」と表明しました。しかし、基本方針には、汚染の拡大を防ぐという当然掲げるべき目標がありません。むしろ、汚染水が漏れたタンクより海側でくみ上げた地下水を「海洋に放流する」ために「最大限努力する」ことを表明するありさまです。
具体策として示されているのも、原子炉建屋の山側(タンクが設置されている高台)で地下水をくみ上げる地下水バイパス、建屋近くで地下水をくみ上げるサブドレン(井戸)、海側遮水壁、凍土方式陸側遮水壁など、5月時点で計画されていたものばかりです。深刻化する事態の全容をとらえなおすことなしに、「抜本的な対策を講じる」ことはできません。
福島原発は、汚染を拡大しかねない非常事態にあります。政府は、一昨年(2011年)の「事故収束」宣言を撤回し、汚染水対策を抜本的に立て直すべきです。
長期のたたかい
放射能汚染の拡大を防ぐためには、増え続ける汚染水と含まれる放射性物質を管理し「閉じ込め」なければなりません。汚染水は、すでに34万トンがタンクに貯蔵され、原子炉建屋等の地下階にも約9万トンあります。そこには、ストロンチウムなど総量で数万テラベクレル(テラは兆)の放射性物質が含まれています。この汚染水が、1日約400トン、1年で約15万トン増えます。貯蔵タンクは80万トンまで増やすとされていますが、それでも3年程度で満杯になる計算です。
汚染水の増加は、建屋地下階への地下水の流入を止めるか原子炉や格納容器を補修するまで続きます。どちらも見通しが不透明な長期的課題であり、その間、増え続ける汚染水をためていかなければなりません。耐久性があり十分な容量の貯蔵施設を確保することが不可欠です。さらに、放射能を「閉じ込める」たたかいは、溶融燃料を隔離するまで続きます。いま直面しているのは、そういう困難で長期にわたるたたかいです。
実態把握が必要
地下水対策を検討する土台として、地下水と地下の汚染の実態把握が必要です。原発の敷地の地下水の流れは大ざっぱにしかわかっていませんし、地下の放射能汚染の3次元的実態は、ごく一部のポイントでしか調査されていません。原子炉から建屋地下への汚染水の経路や建屋地下への地下水の流入経路の具体的な調査も始まったばかりです。
増え続ける汚染水とのたたかいは、一つ一つが新たな挑戦の課題です。それだけに、東京電力任せではなく、政府の責任で、各分野の英知と人材を結集して取り阻む必要があります。原子力規制委員会を含め政府も産業界も、原発の再稼働や輸出ではなく、汚染の拡大阻止、福島原発事故収束のためにこそ、総力をあげるべきです。(党原発・エネルギー問題対策委員会)
東電福島第1原発1号機から4号機(右から)と、後方の汚染水貯蔵タンク群=8月27日(本紙チャーター機から)