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「原潜」保有論 呉東正彦弁護士に聞く/法に反する 事故リスクも重大

住宅地と隣り合わせで配備されている潜水艦(広島県呉市の海上自衛隊呉基地)

コスト莫大 百害あって一利なし

 「原子力潜水艦」保有論が急浮上しています。防衛省有識者会議が9月に公表した報告書で、敵基地攻撃できる長射程ミサイルを搭載した潜水艦に、原子力を念頭に「次世代の動力」の活用を提言。これをめぐり高市早苗首相は「あらゆる選択肢を排除しない」(「読売」12月24日付)とし、原潜保有も検討する考えを表明しました。「原子力空母の横須賀母港化問題を考える市民の会」共同代表の呉東正彦弁護士に問題点を聞きました。(斎藤和紀)

 兵器である潜水艦に原子炉を搭載し、稼働するのは「原子力の平和利用」を定めた原子力基本法に反します。原潜の保有にあたっては米国から得た技術は軍事機密の壁に覆われるため「民主」「自主」「公開」という、原子力基本法のもう一つの原則にも反することになります。

 原潜の大きな特徴は長時間潜航と高速移動ができることです。狙いは、日本近海ではなく遠方に長く潜って敵基地攻撃できる能力を持つことなので、「専守防衛」に反し、憲法との関係も問題になるでしょう。

日米合意に悪影響

 重大なのは、日米両国が1964年に交わした「エードメモワール(覚書)」との関係です。この覚書で、放射性物質を外国の港では原潜から搬出しない、燃料交換や動力装置の修理を日本国内や領海内で行わないルールとなっています。実際には、原子炉のメンテナンスや原子力空母の艦内から放射性廃棄物の搬出といった違反が常態化していますが、こうした作業は建前上「例外」扱いされ、かろうじて海上での作業にとどまっています。米国では陸上で放射性廃棄物の処理を行い、汚染も起きています。

 しかし、自衛隊が原潜を保有すれば基地や造船所で原子炉の修理などが行われることになり、事故の確率や、作業員の被ばく、放射能汚染のリスクが高まります。米軍のエードメモワール違反の原則と例外が逆転します。原則が変更され米軍に危険な修理や放射性廃棄物の搬出にフリーハンドを与える恐れがあります。

基地での事故多い

 原子力潜水艦の事故も頻発しています(表)。問題なのは航海中よりも母港や基地で放射能漏れを起こす事故が多いことです。寄港と違って母港に停泊したら原子炉を完全に止めます。原子炉は熱を出し続けるため、冷却水を循環させるポンプの外部電源が地震などで途絶えると炉心溶融(メルトダウン)を起こし、最悪、福島第1原発のような事故になる恐れがあります。88年には英原潜レゾリューションの1次冷却水の循環が止まってメルトダウン寸前になり、2012年にも90分以上原子炉が冷却されない事故が起きています。海上自衛隊の潜水艦の母港は神奈川県横須賀市と広島県呉市にあり、どちらも人口密集地です。事故が起きれば甚大な被害は避けられません。

 また、日本近海で放射能汚染された冷却水が海に放出される危険があります。米原子力空母ジョージ・ワシントンの航海日誌によると、11年に原子炉を定期修理した後に日本近海で、原子炉を緊急停止させ、直後に急稼働させる試験を実施。この時、冷却水が膨張するため汚染された1次冷却水や、放射性物資を含む気体を放出していました。自衛隊の原潜も同じ試験を行う恐れがあります。

 退役した際の処分も大きな問題となります。退役した原潜は放射能を帯びているため約10年間、港に係留しておかなければなりません。私は1999年に米ワシントン州のピュージェットサウンド海軍造船所を視察しましたが、退役して原子炉を抜かれたが解体できない十数隻の原潜を係留していました。抜いた原子炉はコンテナに厳重に詰め、広大な砂漠にあるハンフォード核施設の地下に並べて封じ込めていますが、日本に捨て場はありません。

 保有や維持管理のコストも莫大(ばくだい)です。百害あって一利なしで、保有はやめるべきです。

主な原子力潜水艦の事故

1988年 英原潜レゾリューション、1次冷却水がとまり、メルトダウン寸前の事故

  96年 米原潜サンファンで水兵1人が原子炉への破壊行為の疑いで免職。電力供給ワイヤーが切断される

2000年 原潜オリンピア、ハワイの造船所で修理中に放射性冷却水が漏れ、労働者3人が被ばく

   同年 英原潜タイヤレス、地中海でメルトダウン寸前の事故

  05年 米原潜サンフランシスコ、グアム沖で海底火山に衝突、艦首が大破

  06年 原潜ヒューストンで2年間放射能漏れ。この間、横須賀、佐世保、沖縄に寄港

  12年 英国の原潜が海軍基地で原子炉冷却用電力供給装置が故障。90分以上原子炉が冷却されず

  16年 米ワシントン州沖で米戦略原潜が軍用輸送船と衝突

 (呉東正彦氏作成)

(「しんぶん赤旗」2025年12月29日より転載)