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2025焦点・論点 原発回帰の問題点は/大飯原発差し止め判決出した元裁判官 樋口英明さん

原発の本質理解しない 最高裁の判決を覆そう

 東京電力福島第1原発事故から14年。事故の被害者らが起こした賠償訴訟で、国の賠償責任を否定した2022年6月の最高裁判決以降、政府は原発回帰を鮮明にし、2月には原発の増設を明記したエネルギー基本計画を閣議決定しました。14年に関西電力大飯原発差し止め訴訟で差し止めの判決(福井地裁)を出した樋口英明元裁判官は、最高裁の誤った判決を覆すことが必要だと言います。樋口さんに話を聞きました。(松沼環)

 ―改めて最高裁判決の問題点を。

 最高裁第2小法廷の多数意見は国の責任を否定しました。三浦守裁判官だけが国の責任を認めました。

 多数意見は、当時の津波対策としては防潮堤を設置することが基本だったと言います。そして、事故前の試算で南東側の津波の高さを15・7メートルと予想したけれど、東側の予想はそれより低かったので高低差のある防潮堤が建造されたはずだ。でも実際は東側からの津波が15メートルに及んだので、防潮堤を造っても浸水は防げず、事故を防止できなかっただろう。だから国が東電に津波対策を命じなかったことと事故との因果関係はないとして、国の賠償責任を否定しました。しかし、多数意見のこの論理構成には到底賛同できません。

 過失責任を問えるかどうかについて裁判官がどう考えるか、交通事故を例にあげます。具体的に子どもが飛び出してきたときに刑事責任を問えるのかは、まず運転手に注意義務違反があったかどうか、そして注意義務違反と子どものけがに因果関係があるかどうかです。

 私が住んでいる三重県では、車が横断歩道で止まらないことが多く、47都道府県中、過去には最下位の47位になったこともありました。三重県の横断歩道付近で子どもが急に飛び出てきて、ひいてしまったらどう考えるでしょうか。「一般的に止まらない車が多いから」などという議論は、絶対やってはいけないですね。

 運転手がどうすべきかは道路交通法で決まっています。横断歩道では、車両は歩行者への停止義務があるのです。「横断歩道であっても止まらない車が多いから」などという言い訳は通りません。

 道路交通法に比べ、原発関連の法律は複雑ですが、どんな注意義務があったかは、法律解釈から出発しないといけません。

 ―あるべき議論が抜けていると。

 最高裁判決には「国の賠償責任を認めるべきである」との三浦守裁判官の反対意見が付きました。多数意見の問題点を指摘し、経産相は東電に対し、津波対策を命じる必要があったとしています。どんな注意義務を負っているのかを法律から考えているのが三浦意見です。

 三浦意見は、経産相に権限が付与された法の趣旨は原子力災害が万が一にも起こらないようにするためだと正しい理解に立っています。関係法律の趣旨から考えて、原発事故を防止するために極めて高い注意義務を負っていたのです。このことは、原発の本質からも導けます。原発の本質とは、冷やし続けなければ暴走するし、暴走した時の被害が途方もなく大きい―この二つです。多数意見は原発の本質に対する理解を欠いているのです。

 原子炉を冷やし続けるためには、電気と水の両方が要ります。しかし、外部電源は耐震性がなく、非常用電源は地下にあって津波に弱い。津波を伴う地震が発生すると「東日本壊滅」のおそれがあった。そのような理由から、極めて高い注意義務を負っていることになります。なし得る最大のことをやらなくてはいけません。しかし、なし得る最大のことをやっていなかった。

 では、なし得る最大をやっていれば助かったのか? 助かりました。しかし、高低差の無い防潮堤を築くことも非常用電源を高所に設けることもいずれの対策もとらなかった。

 ―現政権が原発回帰にかじを切ったことに最高裁判決の悪影響が指摘されていますね。

 仮に三浦意見が多数だったら、国家賠償が認められ、経産相も謝らざるを得ないし、首相も何らかの謝罪をしないといけない。その直後に原発推進は言えなかったでしょう。

 それまでは、徐々にではあるけれど原発依存度は減らしましょうということでした。それが、増やそうという状況になったことに、最高裁判決がかなり大きな影響を与えたと思います。

 最高裁だけでなく、下級審の裁判所が多数意見の通りの判決を書いてしまうので、裁判所全体に対する信頼が失墜してしまっているのです。また、原発の差し止め訴訟にも影響があると感じます。

 しかし、最高裁の多数意見に疑問を持った判決が一つでも出れば、流れが変わるのではないかと私は楽観しています。多くの裁判官が最高裁の多数意見に従っておこうという、裁判官としてはけしからん心構えになっている。けれどもまともに多数意見と三浦意見を比べれば、法律家としてどちらが論理的に正しいかは一目瞭然なのですから。

 ―エネルギー基本計画では原発の新増設にも言及しています。

 原発はエネルギー問題でも、環境問題でも、人権問題でもあります。しかし、原発事故が起きると国の崩壊を招きかねない以上、根本的には国の存続の問題だと思います。

 地震だけではなく、テロの危険もある。国防上の弱点を放置しながら、敵基地攻撃能力を持とうとするなど、滑稽です。地震大国の日本で原発を建て、老朽原発も運転していいという、これは具体的な危険性です。声を上げ続けましょう。

 ひぐち・ひであき 1952年生まれ。元裁判官。2014年5月福井地裁裁判長として関電大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じる判決。15年4月関電高浜原発3、4号機運転差し止め仮処分決定。17年に定年退官。著書に『私が原発を止めた理由』『原発と司法』ほか。

(「しんぶん赤旗」2025年3月11日より転載)