東日本大震災・東京電力福島第1原発事故から13年―事故当初からの放射性物質の流出に加え、汚染水(アルプス処理水)の海洋放出が続いています。昨年8月24日に海洋放出を強行してからの半年間では、廃炉作業現場で重大なトラブルが相次ぎました。「国、東電の海洋放出の前提は崩れた。中止を強く求める」の声が改めて広がっています。(福島県・野崎勇雄)
今年2月7日、同原発の汚染水浄化設備がある建屋の排気口から、高濃度汚染水が漏えいし、一部は土壌に染み込みました。東電は弁の開閉操作の人為ミスだとしています。
また、昨年10月には増設多核種除去設備(ALPS=アルプス)配管を洗浄中に、下請け労働者が放射性物質を含む薬液を浴び、搬送される事故も起こっています。
福島県漁連は今年2月8日付で「処理水放出開始から半年もたたないうちにこのような事態が生じたことは、信頼関係を損ないかねず、極めて遺憾」と抗議文書を出しました。
ふくしま復興共同センターの野木茂雄代表委員は言います。
「国や東電によると、海洋放出の前提は『想定外の事態』を起こさないこと。それが起きると、原発事故後の13年に及ぶ漁業者や福島県民の復興の努力が一瞬にして台無しになってしまうからです。今回の事故は、そうした状況を招く可能性を示す重大なもの。海洋放出は直ちに中止することを強く求めます」
今月4日には「ALPS処理汚染水差止訴訟」の第1回口頭弁論が福島地裁(福島市)で開かれ、漁民の小野春雄さんは意見陳述でこう力を込めました。
「なんで(汚染水が)たまったか。東電の失敗が原因だ。海に流すという発想がおかしい。タンクを造る土地はある。しかし、海に流せば、われわれの子孫の漁業や生活を守れない。絶対に止めなきゃいけない。みんなの力で海を守ろう」
原発事故当初から深刻
放射性物質による海洋汚染の問題は、福島第1原発事故の当初から深刻でした。
2011年3月11日の事故直後には、海水から高濃度の放射性物質を検出。4月2日には、海に流出する毎時1シーベルト超の高濃度汚染水が撮影されています。東電は同月、「高濃度汚染水の移送先を確保するため」として放射性廃液(放出基準の最大1000倍)を海に放出し、漁業者だけでなく国内外から批判を浴びました。
13年5月には、海岸近くの地下水汚染が判明。その後、東電は上流の地下水をくみ上げ海に流す「地下水バイパス」の運用を開始し、さらに汚染地下水をくみ上げて浄化処理をして海に放出する「サブドレン計画」を発表。漁業者は再び、苦渋の決断で同計画を受け入れさせられました。
その際、漁業者側は処理水をタンクで厳重保管し、漁業者、国民の理解を得られない海洋放出は絶対行わないよう求め、政府・東電は「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」と約束したのです。
21年4月の菅内閣による海洋放出決定と、23年8月の岸田内閣による放出実施は、漁民との約束を明確にほごにしたものでした。
日本共産党は、福島の復興の障害となる海洋放出を中止し、汚染水の増加を止めることをはじめ、事故収束に力を尽くすべきだと強調しています。地盤や地下水の専門家は、汚染水を増やさないため▽集水井(しゅうすいせい、大型の井戸)と水抜きボーリングの活用▽安くて工期も短い広域遮水壁―を提案しています。国内外の英知を結集するなら十分可能です。
(「しんぶん赤旗」2024年3月12日より転載)