東京電力福島第1原発事故の「アルプス(ALPS)処理水」海洋放出計画。政府は「夏ごろ」までに実施すると一方的に決めて、国内外で意見が対立・分裂した状況のまま、スケジュール先行で進めてきました。これに対し、地元の研究者らの呼びかけで「復興と廃炉の両立とALPS処理水問題を考える福島円卓会議」が7月に発足。福島県民・国民が政府から説明を受けて“理解する”のではなく、意思決定に参加したいと、活発な議論をしています。政府・東電や国民に向けたメッセージを、近く発信する予定です。(中村秀生)
7月11日と8月1日に福島市内で開かれた2回の会合には、オンラインを含めて、のべ約200人が参加。漁業や農業の関係者、住民、多分野の専門家、青年運動メンバーらが次々に発言しました。
国・東電未参加
「全国の漁業者は反対だ。操業自粛や試験操業を終えて、いま本格操業への移行期間。復興の足かせになることは、やめてほしい」「汚染水発生を抜本的に減らす対策を検討すべきだ」「国や東電をみて感じるのは、不都合なところを隠そう隠そうとしているようだ」「若い世代も真剣に考えている。市民の声が無視できないくらい、声をあげていかないと」「福島だけの問題ではない。国民全体を(議論に)巻き込んでいくことに、知恵を絞ることが大切だ」
対話・参加・中立的な場づくりによる問題解決をめざす円卓会議は、政府や東電とも対等な議論をしたいと、会合への参加を要請しています。これまで未参加。
三つの問題浮上
円卓会議の林薫平事務局長(福島大学准教授=食料資源経済学)によると、これまでの議論から、処理水の処分方法の検討に必要な三つのポイントが浮かび上がってきました。(1)水の化学的性質の理解醸成だけではなく、社会的な合意をつくること、(2)廃炉の道筋をオープンに議論すること、(3)地元の復興を妨げないこと―です。
国際原子力機関(IAEA)の報告書をめぐる議論では、これまでの処理水の処分について、生じる損害より便益が上回るかという観点からの検討(IAEA安全基準が定める「正当化」のプロセス)が欠けている問題が指摘されました。
核燃料デブリをどうするか、汚染水の発生をどう止めるか―といった廃炉計画全体の社会的議論がないことにも疑問が出ました。
「漁業の復興に最も影響が出る海洋放出だけ先に進めて、後のことはボチボチやるというのでは、まったく話が違う」と林さん。政府・東電が「復興と廃炉の両立」といいながら、漁業など地元の復興を犠牲にするような状況のもとで、両者が対等なテーブルについて議論することの重要性を指摘します。
福島県の漁業は、地道な努力を重ねてきましたが、昨年の水揚げ量は、原発事故前の2割しかありません。いま地域の漁協は、5割まで回復をめざす取り組みの真っ最中です。
「短期集中型の増産計画を軌道に乗せられるのか…。ここ数年が“分岐点”です。漁業関係者は、今後何十年も事業を続けるか、後継者を育てるかを考えています」と林さん。「風評被害が出たら賠償すればいいというのでは、地元の思いとは大きくずれています」
国はとどまって
林さんは「この夏の放出開始は、とうてい考えられない状況だ」ということが、議論を通じて共通の認識になってきたと言います。
「反対を顧みず放出時期を先に決めてから説明を繰り返す。それでいて関係者の理解は必ず得ますと強弁する。過去の原子力政策のゆがみに、近年の忖度(そんたく)の悪弊が加わった感を抱きます」
地元と政府・東電が膝を突き合わせて議論しなければ復興と廃炉の真の両立はないと林さんは指摘。「国は一歩とどまるべきです」
(「しんぶん赤旗」2023年8月17日より転載)