被災者が主体の再建こそ地域のきずな取り戻せる
2011年3月11日の東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から12年になりました。原発災害の現状と復興をどう考えるのか。福島県や県内自治体の復興ビジョンなどに携わり、被災者・被災地の目線に立った復興のあり方を問い直している鈴木浩福島大学名誉教授に聞きました。
(三木利博)
―原発災害からの復興の現状をどうみていますか。
私自身、事故発生直後から原発被災者や被災地の状況に接して、三つの観点から原発災害を検証していくことが重要だと考えています。被災者の生活・生業(なりわい)再建、被災地のコミュニティーと地域経済再生、原発事故の収束と廃炉―の三つです。
12年経て、それぞれ深刻な課題を抱えています。事故と放射能の拡散によって被災地の人々は広域的な避難を強いられ、今なお長期的な避難生活を余儀なくされています。被災者の生活・生業の再建は国の復興政策の脇におかれてきたという印象があります。
なぜかというと、政府・復興庁の復興シナリオは、「除染」→「避難指示解除」→「帰還」→「復興」という直線的な「単線型シナリオ」だからです。これが太い流れになってしまって、避難指示が解除された区域の被災者・避難者は「自主避難者」とされ、一定期間が過ぎれば復興公営住宅への入居も一般公営住宅入居者扱いになるなど、生活困難に追い打ちをかけている。国の復興の流れそのものが、時間がたつほど避難者に冷たくなるようになっています。
―地域のコミュニティーの現在は。
ふるさとを追われ、帰還に不安を抱いて戻れずにいる人々が多いし、避難先で家を建てても住民票を移していない。家族の離散もあります。
避難者の人たちがどんなに苦しい思いで今なお避難しているかを避難者に寄り添いながら丁寧に分析する必要があります。
被災地のコミュニティーと地域経済再生では、避難指示が解除されても、人々が帰還して生活するにはさまざまな困難が横たわっています。生活の前提となる農林・畜産・漁業などの生業や雇用機会の見通し、医療・福祉、教育、購買などの条件が整っていないし、事故が起きる前の地域空間―街並みや地域文化の姿が見通せないことは大きな課題です。
一方、ロボット産業などに軸足がある国主導のプロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」からは、地域文化や地域経済に対する視点をくみ取ることができません。関東大震災以来、「人間の復興」が基本だといわれてきましたが、それは脇に置かれ、災害を機に現代的な都市にしようとか産業を興そうという構想にまい進しています。しかし、人は戻ってきません。
深刻な実態が新たに出ています。原子炉の上蓋にものすごい量の放射性物質がたまっていることが明らかになり、昨年は1号機の原子炉を支える土台のコンクリートが失われ鉄筋がむき出しになっていることがわかりました。圧力容器を支えることができずに崩壊する可能性が否定できないといいます。周辺には、ふるさとの復興に取り組む自治体もあるのに、危機管理はどうなっているのか。事故の収束、汚染水(アルプス処理水)の海洋投棄問題、廃炉の具体的な姿など、課題は山積しており、徹底的な情報共有と開示が求められています。
―鈴木さんが座長を務めた「福島県復興ビジョン」(11年8月)では「原発に依存しない、安全・安心で持続的に発展可能な地域づくり」をうたいました。ところが岸田政権が打ち出したのは、原発の新規建設や60年を超す原発の運転を容認する方針です。
原発事故とその災害の広がりを被災地に封じ込める原発再開政策です。被災者の広域的・長期的避難の困難な状況が続き、被災自治体が成り立つかどうかの瀬戸際にあるなか、なぜ、簡単に方向転換ができるのか。再生可能エネルギーという代替手段にかじを切ることができたのに。政府自身が事故を脇に置き原発災害の過酷さを認識していません。原発災害は国民全体の課題のはずですが、目を曇らされているのだと強く思います。くやしい思いがありますが、もっともっと発信しないといけないと。
原発は人間には律しきれない。これからのエネルギー政策が国民生活のあり方に結びつく課題だとみんなが確認することが必要ではないかと思います。
―昨年、県民版復興ビジョンを提案しています。
復興庁ができて以降、事業のメニューがたくさん用意され、各自治体は事業の申請が通るよう努力する。そのプロセスがずっと続いています。国策だけが進み、被災者の切実な生活・生業再建の要求にどう寄り添うかが薄まっています。
私自身が事故直後に県や浪江町、双葉町の復興ビジョンにかかわって、被災地にいかに寄り添うか、問いかけました。それを改めて根底的に問い直したかったのです。
ふるさとの復興を支えるのは被災者自身であり、被災者が復興の主体にならないといけない。そして復興に際しての基本的な視点として、(1)被災者の生活再建のための「生活の質」、(2)地域のきずなを取り戻すための「コミュニティの質」、(3)持続可能な社会をつくるための「環境の質」―について、住民自身が今はどうであり、どこまで満たされているかを判断し、将来の姿としてどう取り戻すか、発言できる道筋をつくることです。その議論の下敷きにと願って課題などを提案しました。
ふるさとの復興は、被ばくの特殊性があり、すごく時間がかかります。世代をつなぎ、生活再建をじっくりやっていくことが必要です。
すずき・ひろし 1944年生まれ。福島大学名誉教授。専門は地域計画・住宅政策。福島県復興ビジョン検討委員会座長、同復興計画(第1次)策定委員長などを務める。著書に『福島原発災害10年を経て』。
(「しんぶん赤旗」2023年3月12日より転載)