岸田文雄内閣が10日、原発の「最大限活用」を明記した「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定しました。原発の建て替えや運転期間の延長などをはじめとする政策の大転換を政府の正式な方針にしました。
昨年末に岸田政権が基本方針の大枠をまとめた際、2011年3月11日の東日本大震災での東京電力福島第1原発事故の教訓や反省を忘れたのかと批判が上がり、方針の撤回を求める声が相次いでいました。反対の世論に背を向け、原発回帰に突き進む岸田政権を許してはなりません。
規制委では強い異論も
基本方針は、既設原発を可能な限り活用するとして、現在「原則40年・最長60年」としている運転期間の上限を事実上撤廃します。「安全対策」などのため停止していた期間を運転期間から除外し、60年を超えた運転を可能にします。
運転期間の上限規制は、福島第1原発事故後に当時の民主党政権と自民党・公明党が合意して導入したものです。原子炉の圧力容器の壁は中性子などに照射される期間が長くなるほどもろくなります。運転停止中でも設備の劣化は進みます。原発の危険を少しでも減らす目的の上限ルールをなくすことは、逆行そのものです。
原発の安全性を審査する原子力規制委員会は8日、60年超の運転についての新しい規制制度案の正式決定に向けて議論をしました。5人の委員の1人、地震・津波対策などの審査を担当している石渡明氏(元日本地質学会会長)は、科学的技術的な新知見に基づいておらず「安全側への改変とは言えない」と述べ、反対を表明しました。このため、この日の決定は見送られました。規制委の一員から強い異論が出されたのに、それを無視して運転期間上限を撤廃すると決めたことは重大です。
基本方針は、「次世代革新炉」導入について「廃炉を決定した原発の敷地内での建て替えを対象として…具体化を進めていく」と打ち出しました。建て替えは、原子力業界や財界、大手電力会社が強く要求していました。
福島第1原発事故後、自民党は新増設・建て替えを想定していないと繰り返し、昨年7月の参院選の公約にも一切ありません。8月末に岸田首相が突然の方針転換を指示し、財界トップなど原発推進派の委員が圧倒的多数の政府の会議に諮り、わずか5カ月余で決定しました。「結論ありき」で国民的議論もせず、国会での説明もなく、一方的に決めたことは民主主義破壊に他なりません。
省エネと再エネの拡大で
基本方針は、原発の最大限活用の口実に脱炭素や電力安定供給を挙げます。しかし、いずれも原発依存では打開できません。原発固執は、気候危機打開に不可欠な省エネと再生可能エネルギーの普及・拡大の妨げとなります。
電力の安定供給に必要なのは、電力需要の急激な増減に対応できる柔軟な電源の確保です。大口需要の時間調整の導入や蓄電システム強化、省エネで対応すべきです。出力調整ができない原発は適していません。
地震・津波が多発する日本で原発を推進することは、国民の命と安全、国土を危険にさらし続けることにしかなりません。
(「しんぶん赤旗」2023年2月12日より転載)