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すいよう特集 福島第1原発事故から12年 現場を見た・・汚染水・デブリ…道筋見えないまま 海洋放出へ急ぐ東電

海洋放出前に処理水を測定・確認するためのK4タンク群=1月10日、福島第1原発(写真はすべて代表撮影)

 東京電力福島第1原発事故の発生からもうすぐ12年。汚染水問題の解決や核燃料デブリ取り出しなど事故収束の道筋はいまだ不透明な状況のもとで、事故現場では廃炉に向けて作業が進められています。1月、原発構内の合同取材に参加しました。(中村秀生)

巨大な穴

 原発構内の5、6号機に近い海側エリアでバスを降りると、ほのかな潮のかおりを含んだ冷たい風が体に突き刺さりました。

 沖合約1キロの海面から突き出た4本の柱が小さく見えました。事故で発生した放射能汚染水を処理した後に残る高濃度のトリチウム(3重水素)を含む「アルプス処理水」を、環境への放出基準値未満に薄めて放出する政府と東電の「海洋放出計画」。東電が、その放出口の工事を急ピッチで進めている現場です。「モルタルの埋め戻しが昨日おわりました」と東電の担当者。

 少し歩くと、放出前に処理水を薄めるための海水を大量に取り込む取水路があります。その横で、薄めた後の水をためる「放水立て坑」の構築が進んでいました。目の前には、「立て坑」の上流水槽を収める巨大な穴が掘られていました。

「放水立て坑」の構築状況。上流水槽を収めるための巨大な穴が掘られていました

 海底トンネルの掘削は陸側から8割程度まで完了しています。

タンクが

 海抜約30メートル、海側エリアから数百メートルの地点には、灰色の1000トン級の巨大なタンクがびっしり並んでいました。K4タンク群。海洋放出のための測定・確認用タンクです。

 現在、敷地内にある1000基超のタンクに、汚染水からセシウムなどの放射性物質を除去する多核種除去設備(アルプス)で処理した約130万トンがたまっています。アルプスで除去できないトリチウムは平均濃度が放出基準の約10倍です。

1号機。事故発生から12年たった現在も水素爆発の跡が生々しい1号機原子炉建屋

 そのうち7割は、トリチウム以外の放射性物質も基準を超えて残っている「処理途上」の汚染水。アルプスで2次処理します。

 政府・東電の計画によると、海洋放出の前に、K4タンク群で放射性物質の濃度を測定し、トリチウム以外が基準値を下回っているかを確認します。

 海洋放出をめぐっては、地元の漁業者をはじめとする多くの反対・懸念の声があがっているなか、岸田文雄政権は1月13日、今春から夏ごろの放出開始を閣議決定。強硬な姿勢が批判を呼んでいます。

 汚染水の発生量は、原子炉建屋などの周囲の土壌を凍らせる「凍土壁」などの対策で減少してきました。とはいえ、建屋への地下水や雨水の流入は続いて

2号機。使用済み核燃料プールから燃料を取り出すための設備の建設が進む2号機原子炉建屋

おり、根本的解決には程遠い状況です。

 汚染水の増加を止められれば、タンクがひっ迫しているからと海洋放出を強行する必要性もなくなります。

 地学団体研究会の専門家グループが、地下水流入を止めるための長期的対策として、(1)凍土壁より広い範囲を取り囲む「広域遮水壁」、(2)広範囲で地下水の水位を下げるための集水井と水抜きボーリング―という二つの提案をしています。いずれも在来工法で可能です。

 ところが東電は昨年12月、政府の汚染水処理対策委員会で、広域遮水壁には「効果がない」と一方的に報告。後ろ向きの姿勢です。

 専門家グループの柴崎直明・福島大学教授は、東電の評価方法には問題があり、設定条件も提案内容とずれていると批判。「効果がないという結論を出すためのアリバイ的な解析ではないか。国や東電は、『海洋放出すればいい』と考えていて、汚染水発生を限りなくゼロにすることについて緊急性を感じていないように思える。真剣に検討するべきだ」と指摘し

3号機 4号機。かまぼこ形のドームが特徴的な3号機原子炉建屋(手前)と四角いカバーで覆われた4号機原子炉建屋(右奥)

ています。

無謀実感

 一方、炉心溶融や水素爆発を起こした1~4号機をのぞむ高台からの風景は、2年前に訪れた時と大きく変わっていませんでした。

 1、2号機では使用済み燃料プールからの核燃料取り出しに向けた準備が進みますが、2号機は24年度以降、1号機は27年度以降です。1~3号機の溶け落ちた核燃料デブリの取り出しは、21年までに予定されていた試験的な取り出しさえできていません。

 廃炉の道筋も見えないなか、海洋放出の準備だけが着々と進められている事故現場を歩いて、ひとたび事故が起これば取り返しがつかない原発を推進することの無謀さを改めて実感しました。

(「しんぶん赤旗」2023年2月1日より転載)