原発推進に逆戻り

建て替え・運転延長を了承 経産省審議会

 経済産業省の審議会「原子力小委員会」は12月8日、原発の建て替え推進や運転延長などを盛り込んだ行動指針案を大筋了承しました。2011年3月の東京電力福島第1原発事故をへて、政府はこれまで「可能な限り原発依存度を低減する」とうたい、新増設や建て替えは「想定していない」としていましたが、それをあからさまに転換するものです。

 審議会では「事故の教訓を投げ捨てるようなとりまとめに非常に憂慮している」「拙速な議論の進め方だ」との意見表明がありました。

 同案は、「原則40年、最大60年」という現行の原発の運転期間の制限規定を変更。この運転期間から、新規制基準に基づく審査などによる停止期間を除くことで60年以上の運転が可能になる仕組みを作ります。ただ、「一定の期間を経た後、必要に応じた見直しを行うことを明確化する」としており、運転期間が今後も変わることを想定しています。

 事故後に改定された原子炉等規制法(炉規法)では運転開始から原則40年とされ、規制委が認可した場合、1回に限り最長でさらに20年延長できると定められています。同法は原子力規制委員会が所管していますが、規制委はすでに同法の規定の削除を容認しており、経産省は法的措置を検討し、来年の通常国会に関連法案の提出をねらっています。

 指針案はまた、原発の「開発・建設を進めていく」と明記。「まずは廃止を決定した炉」を対象に建て替えを具体化するとしています。建て替えについて同省は、廃炉後の更地でなく、同じ敷地内での建て替えを考えています。一方で「その他の開発・建設」は「今後の状況を踏まえて検討していく」としています。

 指針案は今後、経産相の諮問機関「総合資源エネルギー調査会」の基本政策分科会をへて、年内に岸田首相が議長を務める「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で決定する予定です。

 今回の原発推進方針は、岸田首相が8月24日のGX実行会議で「政治決断を必要とする項目」として表明し、具体化の検討を指示していたもの。

審議に「民主主義ない」 市民団体がオンライン会見

 脱原発を掲げるNPO法人・原子力資料情報室は8日、経産省の審議会で大筋了承された原発推進の行動指針案について、オンラインで緊急記者会見を開きました。

 大島堅一氏(龍谷大学教授、原子力市民委員会座長)と、今回の審議会の委員を務める松久保肇氏(原子力資料情報室事務局長)が参加。

 大島氏は「福島原発事故被害の教訓を忘却し、政策を逆流させようとしている」と批判。その上で「原子力政策の根幹を入れ替える政策をつくろうとしている」として、指針案に盛り込まれた政策を行っても「原子力産業の衰退は基本的に避けられない」と強調し、「政策資源、国費、国民の電気料金を無駄に費やすことになる」と指摘しました。

 また、審議の進め方に「民主主義がないまま」で「このような政策に道理はない」と批判しました。

 松久保氏も審議会メンバーの多くが原発の利害関係者で構成され、指針案までの議論が実質2カ月程度で「あまりに拙速」と述べました。

 使用済み核燃料の貯蔵能力がひっ迫しており、再稼働しても数年で停止になる可能性があるのに「なんら議論されなかった」と説明。老朽化していくのにトラブルが起きない保証はなく、今回の運転延長案は「安全神話の復活ではないか」と強調しました。

国際NGOが抗議

 国際環境NGO「FoE Japan」は8日、経済産業省資源エネルギー庁の原子力小委員会において、原発立地地域の支援や原発運転期間原則40年ルールの緩和が盛り込まれた「行動指針」がおおむね了承されたことを受けて、原発推進「行動指針」に抗議する声明を発表しました。

 声明は、「日本社会に対する原発依存の押しつけ」と批判。原発のリスクとコストを社会全体に押し付け、将来に禍根を残すと指摘しています。

 また、原子力産業の利益を代弁するような委員が圧倒的多数を占める小委員会で、国民を置き去りにして大筋決定したことは、大きな問題であるとして、「行動指針」に強く抗議し、撤回を求めています。

(「しんぶん赤旗」2022年12月9日より転載)