東京電力福島第1原発事故によって避難した住民らが国に損害賠償を求めた4件の訴訟で、最高裁が国の責任を認めない判決を言い渡しました。津波の規模が想定を超えるものだったから、対策をとっても被害は防げなかったという判断です。2011年3月の未曽有の事故でふるさとを奪われ、苦難を強いられている避難住民の思いに背を向けた不当判決です。事故を防ぐ義務を果たさなかった政府の主張を追認した最高裁判決は到底受け入れられません。
裁判官1人は反対意見
判決が出されたのは、「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟(生業訴訟)、千葉訴訟、群馬訴訟、愛媛訴訟についてです。
原告側は、政府の地震調査研究推進本部が02年7月に公表した地震予測の「長期評価」に基づけば、巨大津波の襲来は予見でき、対策を東電に行わせなかった国の責任を追及していました。
これに対し最高裁は「長期評価」に基づき国が東電に安全対策を命じたとしても、津波の規模は予想より大きく、原発事故は防げない可能性が高かったとしました。
原発は、ひとたび事故を起こせば計り知れない被害を及ぼします。「国策」で原発を推進する以上、国には事故を防ぐためにあらゆる手だてを講じる責任があります。ところが事故の9年前に津波の危険を警告されていたにもかかわらず、国は対策を求めることを怠り重大事故を引き起こしました。この国の不作為を「想定外」を持ち出し免罪することは、最高裁判決が福島原発事故の痛苦の教訓に反する立場に立ったという他ありません。
判決では審理にあたった裁判官4人の中でも見解が分かれ、検察官出身の1人は多数意見に対し反対意見を付けました。
そこでは、「長期評価」は信頼性が高く、これを受けて対策をとっていれば事故は回避できた可能性が高いなどと述べました。防潮堤だけでなく施設の浸水を防ぐ「水密化」も講じられていれば、非常用電源設備が機能を失わない効果があったとも記しました。
多数意見については「長年にわたり重大な危険を看過してきた安全性評価の下で、関係者による適切な検討もなされなかった考え方をそのまま前提にするもの」と批判しました。
「規制権限の行使を担うべき機関が事実上存在していなかった」と国の権限不行使を違法と断じた反対意見を、政府は真剣に受け止めるべきです。
4件の訴訟では、今年3月の最高裁判決で東電が約14億円を賠償することが確定しています。国が目安として定めた賠償額を上回っており、現在の賠償基準が被害の大きさに見合わない低い額であることが浮き彫りになっています。国は原告にとどまらず、全ての被害者に対して真摯(しんし)な謝罪と十分な補償を行う責任があります。
「最大限の活用」やめよ
岸田文雄政権はロシアのウクライナ侵略の影響によるエネルギー供給不足を理由に、原発の「最大限の活用」を打ち出しています。再稼働を推進するために規制を緩めることも企てています。11年が過ぎたいまも住民に深刻な被害を与えている原発事故への反省がありません。安全に対して責任を果たさない政権に参院選で厳しい審判を下す必要があります。
(「しんぶん赤旗」2022年6月19日より転載)