リモートセンシング技術センター特任首席研究員 近藤洋輝さん
今回の報告書では、温暖化予測について、これまでと違う迫り方をしています。
これまでの予測シナリオは、人間社会の将来のありようがあって、二酸化炭素(CO2)がどのくらい排出され、その結果、気温上昇などはどうなる、という道筋でした。
今回の予測シナリオは、まず将来のCO2濃度があり、そのもとでの気温上昇を示しました。
人間社会が対策をとることを前提にしています。
また、「CO2の累積排出量と世界の平均地上気温の上昇はほぼ比例関係である」という新しい見解を示しました。
新シナリオによれば、今世紀末の気温上昇を産業革命から「2度未満」に抑えることを、66%の確率で実現するためには、CO2の累積排出量を3兆67O0億トンに抑える必要があるとしています。すでに2011年までに約2兆トンが排出されています。「累積排出
量」という観点でみれば、新興国の排出量も無視できな<なつています。
現在、すべての国が排出削減に参加する枠組みづくりの国際交渉が始まっています。 報告書は、交渉を科学的に促進するものとして大きな意味があります。
予測の分野では、スーパーコンピュータを使った日本の気候モデルは最先端にあります。今回も多くの論文が引用され、貢献できたと自負しています。
一方、日本の書店には、温暖化と懐疑論の本がともに並ぶという特異な光景があります。学術上では「温暖化していない」という議論は全くありません。
ここ十数年、世界の平均気温の上昇が鈍っています。それを理由に「温暖化は違う」という意見があります。この間題も報告書では扱いました。気候には大気や海洋などの相互作用による内部変動があり、気温の鈍化はその一種と考えられること、10年規模の変動は「長期間の気候の変化傾向を反映しない」のです。
台風の強まり、局地的豪雨、猛暑日など日常の極端現象の背景に、温暖化という大きな流れがあること、IPCCのメツセージにぜひ関心をよせてほしいと思います。
(談)