日本共産党嶺南地区委員会 > しんぶん赤旗 > 福島原発避難者証言集 授業の教材に・・宇都宮大国際学部准教授 清水奈名子さん

福島原発避難者証言集 授業の教材に・・宇都宮大国際学部准教授 清水奈名子さん

 「被災者の語り、証言を聞き、読んで自分の頭で事故について考える」。事故とは2011年3月11日の東京電力福島第1原発事故。宇都宮大学国際学部の清水奈名子准教授は、避難者の証言集を教材に、戦争と平和、原発事故を学生とともに考え、討議する授業を続けています。(徳永慎二)

読んで語って学生は考えた

 清水さんのこの授業は、学部、学年を問わず受講できる、後期(10月~3月)の一般教養科目です。東電の原発事故以前から開講しています。「もともと、戦争と平和を広く考えることを意図した授業です。事故後、原発事故について学生と一緒に考える機会をつくりたいと思い、原発事故をテーマに追加しました」(清水さん)

 「戦争と平和」と原発事故の関連について、「チェルノブイリやスリーマイル、福島を見ても、ひとたび事故が発生すれば、人的にも環境的にも、その規模や被害は深刻です。戦争や内戦に匹敵するといってもいいほど」だと指摘。こう提起します。「原発事故は、物理的な被害に加え、格差や差別などの深刻な人権侵害が2次被害として今なお続いています。同時代を生きるものとして、このことを直視する必要があるのではないでしょうか」

継承しにくく

 21年度の受講者は45人。「大学の規模に照らして多い」といいます。

 最初に「原発事故がなぜおきたのか説明できますか」と聞くと、多くの学生が「当時小さかったから知らない」「くわしくは知らない」「説明できない」という答えでした。「では学校で原発事故について習った人は?」の問いに「習った」と答えたのは8人でした。

 清水さんは「事故が継承しにくくなっている」と感じるとともに「事故について知らない、説明できない、その原因は学校で教えられてこなかったから、と学生たちが気づいたのは意味あることだ」といいます。

 授業では、証言集から2人以上の証言を読んでもらい、その感想を3~4人のグループで出し合い、討論しました。ある学生が「本人は、話せなかったのかもしれないが、自分の身近に大変な思いをした被災者がいたかもしれない」と発言しました。それに別の学生が「はっとした。事故や被災者のことについてもっと早く知りたかった」とのべたことが「大変、印象的でした」と話します。

総合的に理解

 宇都宮大学では、前期(4月~9月)も、地震・津波・原発事故をテーマに、一般教養科目を開講しています。「3・11」を総合的に理解するためです。12年以来すでに10年になります。

 この講義には同大学の全5学部の教員たちがかかわっています。農学部の教員が学生たちと、大学敷地内の放射線量を測定するのは一例です。

 清水さんは「エネルギー政策を含めてこれからの社会をどうつくっていくか、自分で考え、判断する力を養ううえで、被災者の直接の声・証言を聞いたり、読んだりするのは意味あることだと思います。今年も、そうした取り組みを続けていきたい」と話しています。

 証言集 『原発避難を語る―福島県から栃木県への避難の記録―』。宇都宮大学国際学部の福島乳幼児・妊産婦支援プロジェクト(FSP)と、福島から避難してきた「栃木避難者母の会」との共同編集。7人の葛藤、思いを克明に記録しています。15年に完成。18年に増刷版。同大学学生による事故年表、汚染マップなどの資料を掲載しています。

■授業で出された学生の感想(ごく一部)

#突然の出来事に政府や自治体の対応も追いついておらず、ほかの県では住民票もその県に持つことができずに、さまざまな支援を探しながら生活していくことを迫られたその状況が、精神的にも身体的にも負担になっていたのだと分かり、当時の深刻な支援不足が感じられ、印象的でした。

#「自分たちで声をあげないと国の上の人たちが勝手に決める」という被災者の言葉は、ニュースで見てきたものと授業で知ったことでの違い(を感じた)。主張しないと違う定説が固まってしまうことが恐ろしい。

#(戦争と原発事故を経験した人の証言で)最後に「若い人に私たちの気持ちを言ってもわからないかもしれない」とおっしゃっていますが、だからこそ分かろうとする努力が必要であり、戦争や原発事故について勉強する意義があると思う。

(「しんぶん赤旗」2022年1月12日より転載)