原発の蒸気発生器などでは、熱交換のための多数の細管が、冷却水の流れで生じる振動によって装置と細管が触れ合って減肉することや、ピンホール規模の沸騰蒸気による乾いた金属表面と沸騰水に包まれたぬれた状態の繰り返しで、不純物が結晶化し細管破断事故につながることもあります。
温暖化で高まる災害による危険
より大きな問題は、原子炉が緊急停止した時に、核燃料は崩壊熱で溶融が始まりますから、ただちに冷却水を送り込まなければなりません。その時、送水ポンプを動かすのに必要な電源は、主に外部の火力発電所からの電力です。これがどんな場合でも、断たれないようにしなければなりません。
ところが現実には、外部電源喪失の例はいくつもあります。台風による東京電力鹿島幹線の送電鉄塔倒壊、北陸電力志賀原発の送電鉄塔ががけ崩れで倒壊した事故、東電福島第1原発構内受電鉄塔倒壊などです。今後、地球温暖化によって、豪雨災害、がけ崩れ、超大型台風・竜巻の発生が頻発して、危険性が高まることは必至
です。
緊急停止に際して、原子炉補助建屋にあるディーゼル発電機が、内部電源として働くことになっています。福島第1原発事故では、津波で水没して発電できず、内部電源喪失状態になりました。
内部、外部両方の電源喪失、すなわち全電源喪失となると、原発の核燃料から放出される放射性崩壊熱を取り出さないと、核燃料を包んでいる被覆管のジルコニウムが1000℃を超えて溶融し始めます。
ジルコニウムと水蒸気が反応し、軽い水素が破損部分から原子炉圧力容器内、さらに原子炉建屋に流出し、爆発下限界濃度に達したところで水素爆発をおこします。ですから原発停止の事態では、緊急炉心冷却システムが働かないと大変です。
想定できていた東電の原発事故
ところが東京電力福島第1原発は、このシステムを働かせる電源が喪失状態になったので、爆発と放射能汚染という最悪の事態になったのです。
この事態は、全く想定できないことではありませんでした。2006年3月の衆院予算委員会で私は、04年12月のインドネシアのスマトラ沖地震による大津波を踏まえて質問しました。
地震国日本でも巨大地震に伴って大津波が発生すれば、原子炉施設が水没などの被害を受けます。「押し波」だけでなく「引き波」の時には、原発の取水口より低い位置まで水位が下がると、冷却水を取り入れることができなくなって、いくらポンプを回しても、海水が入ってこないから冷却できないことになると追及しました。
この時の経済産業大臣の二階俊博氏は「今後、全省挙げて、ご指摘の原発の津波対策に取り組む」と決意表明しましたが、内閣改造で姿を消すと、「答弁」は消滅扱いとなってしまいました。
私は、その後に誕生した安倍晋三総理に06年12月、質問主意書を出して、丁寧に警告しましたが、安倍総理は「日本の原発は安全」「全電源喪失など起こらないように、安全確保に万全を期す」と、5回も繰り返す答弁書を出しました。その後、結局何の対策も取らず、「3・11東電福島第1原発事故」の大惨事を招いてしまいました。
(おわり。(上)は26日付に掲載)
「科学技術」は幸せのために
吉井英勝さんは、佐賀地裁での意見陳述(10月29日)の中で、科学者の社会的責任について、“科学技術にかかわる者は利益や利害に目がくらんで、その専門知識を活用してはならない”という湯川秀樹、朝永振一郎、坂田昌一の3人の著名な物理学者の教えを深く心に刻んできた、とのべています。
そして「広い常識とバランス感覚」「高い道徳性や倫理性」を身に付け、国会議員として「科学技術を住民生活の安全と国民の幸せに役立たせる」ために活動してきた、と陳述しました。
(「しんぶん赤旗」2021年11月27日より転載)