安倍政権は11月15日、2020年までに温室効果ガスを05年比で3・8%減らすという「暫定目標」を発表しました。1990年比25%減としていた目標を撤回し、地球環境や人類の存亡より経済成長を優先する内容になっています。
(金子豊弘、佐久間亮)
今回の目標には森林吸収分の約3%減が含まれています。これを除くと削減幅はほぼゼロになります。
温暖化を2度以内に抑えるには、50年までに世界の温室効果ガス排出量を1990年比で50%、先進国は80%減らすことが%要です。先進国には2020年までに25~40%削減することが求められていました。1997年に採択された京都議定書で、日本は12年までの目標を「90年比6%減」としていました。
安倍政権が基準とする05年の日本の温室効果ガス排出量は、90年比で7・1%増えています。そのため安倍政権の削減目標は、90年比に直すと約3%増となります。減らすどころか増えています。
安倍政権は、東京電力福島原発事故で全国の原発が止まり、火力発電の使用が増えたことを、温室効果ガスを減らせない理由にしています。
歴代自民党政権が危険な原発頼みのエネルギー政策をとり、再生可能エネルギーの普及や低エネルギー社会への取り組みに本腰を入れてこなかったことに対する反省のないものです。温暖化対策を名目に原発の再稼働を迫るのは、国民を欺くものでしかありません。
財界・大企業巻き返し
安倍政権は、中央環境審議会(環境相の諮問機関)と産業構造審議会(経済産業相の諮問機関)の合同部会で、温暖化対策を検討してきました。温室効果ガスを90年比で25%削減する目標を撤回させる財界・大企業の巻き返しの舞台になりました。
会議の中で経団連の坂根正弘環境安全委員会委員長(小松製作所相談役)は、「成長目標を掲げ、それに必要なエネルギーをどうして、その結果C02がどうなるという、この手順は絶対必要」と主張。温暖化の抑止という人類の生存がかかった緊急課題よりも「経済成長」を優先させることを求めました。
経団連は、各国に温室効果ガスの削減目標を義務づけるというやり方を拒否し、自主目標にとどめるべきだと主張し続けています。今回、政府が90年比約3%増加の目標を決めた背景になっています。各国の削減努力をいかにして底上げするの
かを議論するCOP19の前提を破壊するものです。
一方、「原発利益共同体」の中心部隊である電気事業連合会。井上祐一環境専門委員会委員長は、温暖化目標の見直しについて「エネルギー政策と温暖化政策というのは表裏一体。やはり原子力稼働の見通しなどを考えて一定の幅をもった値とならざるを得ない」と、温暖化対策のためには原発再稼働が必要だとの立場を強調していました。
豪雨・大風 被害に直面
温暖化の被害は世界各地で現実化しています。かつて経験したことのない豪雨、台風の猛威に人々が苦しめられています。
大型台風30号がフィリピンを襲いました。死者は、1万人とも予想されています。ポーランドの首都ワルシャワで聞かれている国連気候変動枠組み条約第19回締約国会議(COP19)の開幕日で訴えたフィリピン代表の兄弟は、空腹の中で、自らの両手を使って遺体を集めていました。代表は時折、ハンカチで目頭を押さえながら訴えました。
「問題は解決できます。この狂気は、止めることができる。今すぐに」
「気候変動に関する政府間パネル宇(IPCC)」第1作業部会が9月にまとめた地球温暖化についての第5次評価報告書第1作業部会報告書は、地球温暖化について「人間の活動が20世紀半ば以降に観測された温暖化の主な要因であった可能性が極めて高い」と強調しました。
報告書は、1880年~2012年に世界の平均地上気温が0・85度上昇し、1992年~2005年に、3000メートル以上の海洋深層で水温が上昇した可能性が高いとしました。また、過去20年にわたり、高い確信度をもってグリーンランド及び南極の氷床の質量が減少、氷河はほぼ世界中で縮小し続けているとしました。
さらに今世紀末までには、気温の上昇は最大4・8度に達し、海面上昇は82センチメートルになると予想しています。
温暖化の抑制は、生態系と人類の生存にとって緊急課題です。