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2021とくほう・特報 福島 帰還困難区域のいま・・過酷事故10年 帰れない 原発ゼロへの転換こそ被害に向き合う政治

 国策ですすめた原発=東京電力福島第1原発の過酷事故から10年。依然として放射能で汚染された広大な「帰還困難区域」が残る現実は、日本のエネルギー政策の転換を求めているといえます。「帰還困難区域」のいまと、連帯して「原発ゼロ」運動を続ける人たちの思いをリポートします。(阿部活士)

 「浪江町に来るなら帰還困難区域を視察し、被害住民の声を聞くべきだ」

 浪江町津島地区から二本松市で避難生活をしている柴田明範(あきのり)さん(54)は、菅首相の水素施設視察(6日)に怒ります。

 結婚後25歳の若さで建て、子ども5人を育てた自慢の家は住めなくなりました。

 東日本大震災でも屋根瓦一枚も落ちませんでした。しかし、大学の調査団が線量を測った時の言葉が忘れられません。「この家は線量が高く住めません。瓦のすきまから放射能が入り、内壁も放射能が吸着している」

 浪江町の8割は「帰還困難区域」です。町によると、1284世帯、3654人が避難生活を余儀なくされ、津島地区(旧津島村)は全域がその区域にされ、約430世帯、約1400人が生活していました。

自宅が帰還困難区域にされた柴田明範さん

ストレスで病に

 一家で仮設住宅に移ったものの、柴田さんは原発ストレスでメニエール病にかかり難聴で職を失いました。

 当時中3生だった長女は原発ストレスで、自律神経が破壊される起立性調節障害で今も治療中です。小学6年生だった次女は転校した学校で「放射能」とよばれるいじめにあい、学校に行けなくなった心の傷を引きずっています。

 「安倍首相(当時)は“除染する”といっていたのに今も除染されない。10年間生殺しの泣き寝入り状態だ。国が責任を認め、完全賠償をした時に気持ちがおさまるかもしれないが、今はそんな気持ちになれない」

目立つ通行止め

 中山間部にある津島地区。国道沿いには「この先 帰還困難区域につき 通行止め」の看板が目立ちます。浪江町の許可を得て、通行止めの柵をどかして山道に入ると、地面は枯れ木や枯れ葉、動物のふんなどで覆われ、路肩とがけの見分けがつきません。

 徒歩で20分ほどすすみました。途中にあった家も1軒は廃屋同然。周りがやぶに覆われ玄関もわからない家も。持参した線量計が、毎時2・23マイクロシーベルト→2・52と、どんどん上昇。2・74になったところで戻らざるをえませんでした。国は10年間、一度も除染せず放置してきました。除染計画も明らかにしていません。

大玉村で避難生活をしている佐野久美子さん

家も農地も返せ

 遠くに見える安達太良連峰の山並みが「南津島に似ていて、好き」と大玉村に引っ越した佐野久美子さん(62)。4人の子どもを育てた家のある地区は帰還困難区域で除染されず、家はネズミやハクビシンに荒らされ、ふんなどの臭いがする「お化け屋敷」に変わったと嘆きます。

 「家も農地も放射能で汚したのだから“きれいにふき取って返せ”といいたい。汚染され負の遺産となった家や農地を子に残したくない。国に買い取ってくれといいたい」

50キロ離れても

17人が参加した「原発ゼロ白河金曜行進」=19日、白河駅前

 「放射能で被ばくする恐怖は原発が立地する“浜通り”だけでなかった」。こう振り返るのは、原発から50キロ以上離れている白河市に住む「しらかわ復興共同センター」事務局長の本田武男さん=元高校教諭=です。

 四つの原発が壊れて取り出せない放射能の塊といえるデブリがあります。余震などの天災や万一の事故によって被ばくする恐怖がたえずあり、県外から今も戻れない人がたくさんいるといいます。

 本田さんらは、福島から「原発ゼロ」の声を広げようと白河駅前で毎月、「原発ゼロ金曜行動」を8年間続けてきました。3月の行動でも「原発事故から10年 原発ゼロで子どもたちに安心・安全の未来を」と書いた横断幕を掲げてアピールしました。

 「放射能汚染水、建屋の解体、デブリの取り出しなど数十年にわたって“負の遺産”として、子どもたちに重くのしかかります。原発をゼロにするのが、おとなの責任です」

 ふくしま復興共同センター(共同センター)代表委員で、福島県労連議長の斎藤富春さんは、今年に入って、各地の原発ゼロの会などで、オンラインで「福島のいま」と題して講演しています。

 国・東電の法的責任を認める司法の流れや野党提出の「原発ゼロ基本法案」など到達点と成果に確信を持とうと強調しています。

 とくに原発ゼロ基本法案は「国の原子力政策が誤りであった」と明記しています。「再稼働を認めず、すべての原発の運転をすみやかに停止し、廃止する」ことや「再生可能エネルギーの利用を進め、2030年には電力の40%以上にする」など画期的な内容です。

 「国のエネルギー政策を『原発ゼロ、再生エネ』に転換させれば、福島県民の被害や困難に向き合う政治になるはずだ」といいます。

 斎藤さんを講師に先月、学習会を開いた原発ゼロ長崎連絡会。ゼロ基本法を求める署名行動を6日、長崎市内で行いました。事務局を担当する川尻瑠美さんは語ります。「福島の人たちを支援するとは、原発ゼロ法案を国会で通すことだと思います。総選挙で、原発ゼロを実行する政権に代えたい」

(「しんぶん赤旗」2021年3月24日より転載)