日本原子力発電東海第2原発の運転差し止めを命じた水戸地裁判決は以下の通り。
【主文】
日本原子力発電は、東海第2発電所の原子炉を運転してはならない。
【判決理由の要旨】
周辺住民に大きなリスク源となる発電用原子炉施設が、予測の不確実さに対処しつつ安全性を確保する方策として深層防護の考え方を適用することが有効とされており、国際原子力機関(IAEA)は第1から第5までの防護レベルによる深層防護の考え方を採用している。
争点のうち、基準地震動の策定及び施設の耐震性、基準津波の策定及び津波漂流物の想定、火山による気中降下火砕物対策、内部火災対策、重大事故等対策の有効性評価、東海再処理施設との複合災害は深層防護の第1から第4に相当するが、いずれも原子力規制委員会の適合性判断の過程に過誤、欠落があるとまでは認められない。
第5の防護レベルが達成されているというためには、少なくとも、原子力災害対策指針において、原子力災害対策重点区域のPAZ(おおむね半径5キロ内)およびUPZ(同30キロ内)で全面緊急事態に至った場合、同指針による段階的避難等の防護措置が実現可能な避難計画及び実行し得る体制が整っていなければならない。
深層防護は各防護レベルが独立して有効に機能することが不可欠の要素であり、いずれかが欠落し又は不十分な場合には、発電用原子炉施設が安全であるということはできない。
本件発電所のPAZの人口は約6・4万人、UPZの人口は約87・4万人で合計94万人余に及んでいる。
全面緊急事態に至った場合、PAZの住民6万人余が一斉に避難するだけでも避難経路の混雑ないし渋滞が容易に想定されるが、UPZの87万人余からも相当程度の住民が無秩序に自主避難を行った場合には、避難経路はたちまち重度の渋滞を招来し、PAZ及びUPZの住民双方が短時間で避難することは困難となる。
原子力災害広域避難計画を策定した市町村は、PAZ及びUPZの14市町村のうち、相対的に避難対象人口の少ない5つの自治体にとどまる。これに対し、市全域がPAZ又はUPZとなりかつ15万人以上の避難対象人口を抱える日立市及びひたちなか市や、市全域がUPZとなり避難対象人口27万人余を抱える水戸市はいずれも策定に至っていない。
大規模地震が発生した場合、住宅が損壊し、道路が寸断することをも想定すべきところ、住宅が損壊した場合の屋内退避については具体的に触れず、自然災害を想定した複数の避難経路の設定はされていない。
また県広域避難計画は、複合災害時におけるモニタリング機能の維持、災害対策本部機能の維持、第2の避難先の確保、避難退域時検査を実施する要員の確保、資機材の調達、実施場所の確保等を今後の検討課題としており、5つの自治体の広域避難計画についても災害対策本部の機能維持、複合災害時における第2の避難先や代替避難経路の確保等、今後の検討課題を抱えている。
以上によれば、本件発電所のPAZ及びUPZにおいて、段階的避難等の防護措置が実現可能な避難計画及びこれを実行し得る体制が整えられているというにはほど遠い状態であり、PAZ及びUPZ内の原告らとの関係において、深層防護の第5の防護レベルには欠けるところがあると認められ、人格権の具体的危険がある。
(「しんぶん赤旗」2021年3月21日より転載)