東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から10年の節目にあたり、2月26日に行われた日本共産党の志位和夫委員長、笠井亮衆院議員、岩渕友参院議員と福島県の住民や市民団体の代表者とのオンライン懇談の詳報を紹介します。
志位氏は、「大震災・原発事故10年にあたり現状と課題をお聞きし、政府に対応を求めたい」として、(1)1日150トン増え続けている汚染水の海洋放出問題など現在進行形で深刻な事態が続く原発事故の状況(2)生活支援の打ち切りや長期避難による関連死の増加などに避難者が直面する実情(3)国も東電も加害責任をとろうとしないなかで、裁判闘争も含めてどう賠償を勝ちとるかなどの賠償問題(4)新型コロナなど二重三重の困難が直撃するなかでの農林水産業、中小企業など生業(なりわい)の再建(5)福島県で15歳以下の子どもの数が10年間で7万人近く減少するなかで命と健康をどう守るかなど子どもと教育―について尋ねました。
原発
原発問題住民運動全国連絡センター筆頭代表委員・全国革新懇代表世話人の伊東達也さんは、原発事故で(1)使用済み核燃料(2)溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出し(3)汚染水の増加(4)施設の劣化(5)放射性物質の飛散(6)巨大地震や津波への安全対策(7)低線量被ばく―の七つの重複したリスクがあると指摘。(6)について、11メートルの防潮堤を建設している東電の試算でも15・5メートルの津波も来る可能性は否定できないとしているとし「まったく対策がありません」と告発しました。また、避難者数の実態把握のため国による大規模調査の実施を訴えました。
「被災者本位の復興になっているかどうか問われている」と語った、ふくしま復興共同センター代表委員の斎藤富春さん。「改めて原発ゼロ運動のさらなる発展をどうつくっていくのか」と述べ、県が当初の段階で策定した復興ビジョンの理念は、原子力に依存しない安全・安心で持続的に発展可能な社会づくりだと指摘し「この理念に立ち返り、これからの運動を組み立てていくことが“福島切り捨て”に対抗する運動になります」と力を込めました。
生業
「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟原告団長の中島孝さんは、原発事故の賠償に関し、避難指示のない区域の県民には、事故発生から42日間だけを精神的損害対象期間として県南方部と会津地方を除き1人8万円、その後4万円の追加分しか賠償されていないと指摘。自主避難区域からの避難者は精神的被害のみならず避難に伴う膨大な費用がかかっており、その費用の賠償が漏れているとし、「本当の被害救済を果たしたという公正な判決を導き出すのには強大な国民的世論と運動を盛り上げなければと痛感しています」と語りました。
寂れてしまった浪江駅前の風景写真を示した日本共産党の馬場績浪江町議。個人住宅や商店街の約8割が解体されたほか、震災・原発事故前には1700人以上いた児童・生徒が、現在は小学生25人、中学生6人しかおらず県立高校も事実上廃校措置になっていると報告。一方で、町民の生活再建支援よりも、国家プロジェクトとして「福島イノベーション・コースト(国際研究産業都市)構想」に基づく世界最大級の水素製造拠点など“惨事便乗型”の巨大開発が進められ「ゆがんだ被災地復興になっています」と告発しました。
日本共産党福島県議団の神山悦子団長は、原発施設のタンクのずれや格納容器のひび、機器の損壊などいまになって初めて明らかにされたこともあるとして、福島第1原発と第2原発について機器の損傷も含めた対応を国が責任をもって見届け対応するべきだと強調。また、水産業はじめ生業の再建には遠く、避難地域の双葉地域の医療福祉施設の回復状況も高齢者など介護施設80%台、児童福祉施設60%台、医療機関30%台にとどまっていると指摘しました。
避難
参加者の発言を受けて志位氏は、「行政が避難者の実態をつかんでいないことは大きな問題です。国の調査が必要との話もありましたが、避難者をどう把握し支援していくべきか」と質問しました。
伊東氏は、いわき市では1万9千人の「強制避難者」がいるものの、大部分が復興公営住宅に入るなど「家」があるため、県も国も避難者に数えていないと指摘。「何をもって避難者とするかの考え方をきちんとさせることが必要です。私は強制避難した人はみんな避難者だと思う」と述べました。
神山県議は「少なくとも住民票を置いたまま避難している人は避難者に加えるべきです」と発言。馬場町議は、自身も放射線量が高い浪江町の自宅に戻れないのに「移住者」と判断されていると述べ、「支援の対象にしたくないというのが国と県の考え。被災者切り捨てそのもの」と訴えました。
地域支援
志位氏は「浪江町は地域コミュニティーをどう存続していくか深刻な事態だと思って聞きましたが、具体的にどういう支援を国がやるべきか」と質問。馬場町議は、何百億円もかけて産業団地がつくられる一方、地元の事業や農業の再開支援が抜け落ちていると述べ「ここにどう支援をするかが一番大事ではないか」と提起しました。
岩渕氏は、イノベーション・コースト構想について「惨事便乗型であると同時に、被害者や福島県民が置き去りにされている実態がある」と指摘しました。
笠井氏は、原発事故の教訓は「原発ゼロ」だという福島県民の声が、国民の世論と運動に大きな役割を果たし、野党が共同提案した「原発ゼロ基本法案」に結び付いたと強調。菅政権が原発の永久化にかじをきるような状況があるなか、「事故から10年たった今、県民の原発ゼロへの思いは」と質問しました。
伊東氏は、朝日新聞社と福島放送の共同世論調査では原発再稼働反対が全国53%に対し、福島県民は69%だと紹介。「県内の原子炉をすべて廃炉にし、最初に原発ゼロに展望を開いたのは福島県。県民は怒りに怒っていると訴えていく必要があります」と述べました。
町田和史・日本共産党福島県委員長は、「原発ゼロの政治を決断しない限り、原発再稼働を推進しようとする限り、事故も被害も終わったことにしようという力が働く」と指摘しました。
最後に志位氏は、「みなさんの発言はすべてしっかり受け止めました。問題が解決したと言えるまで、国が責任をもって支援を継続・強化することを強く求めていきたい」と述べました。また、「冷酷な福島切り捨ての政治と、原発にしがみつく政治は裏腹の関係というのは、私も本当にそうだと思う。そういう問題として取り組んでいきたい」と発言。全国でも福島県で初めて実現した原発の全10基廃炉や、18歳以下の医療費無償化をあげ、「この10年のみなさんの運動で勝ち取ってきたものに、大いに自信を持って、一緒に運動を進めていきたい」と訴えました。
(「しんぶん赤旗」2021年2月28日より転載)