東京電力福島第1原発事故をめぐり福島県から群馬県に避難した住民らの訴訟で、東京高裁(足立哲裁判長)は21日、一審前橋地裁判決の国の責任を認めた部分を取り消し、国の責任を否定しました。「(事故を起こした大津波の)予見可能性が認められない理由が一連の判決の中で最もひどい」と批判の声が上がっています。
昨年9月、「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟で仙台高裁は国の責任を認めました。判断を分けたのは、国の地震調査研究推進本部(推本)が2002年7月に公表した地震予測「長期評価」の信頼性に対する評価です。長期評価は、福島県沖を含む三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りのどこでもマグニチュード(M)8クラスの津波地震が30年以内に20%程度の確率で起きると予測。東電は長期評価を踏まえた分析を08年に行い、福島第1原発の敷地高を大きく上回る高さ15・7メートルの津波が襲来する計算結果を得ています。
「想定されなかった」
東京高裁は、長期評価の知見が国の規制権限行使の要件に足るものかどうかを判断する根拠として、土木学会が02年にまとめた、原発の津波水位設定手法「津波評価技術」を据えました。国は津波評価技術では福島第1原発の敷地を超える津波は想定されなかったと主張しました。
津波評価技術を審議した土木学会の部会の委員30人のうち半分以上の17人は電力会社の社員や関係者です。判決はそれを国の機関が公表した長期評価の見解より重視し、津波評価技術の知見と「整合しないものであった」から、津波発生を予見できたとはいえないとしたのです。群馬訴訟の弁護団が「業界内部の基準にすぎない評価技術を優先」した判決だと批判したのは当然です。
「異なる重要な見解」
この点で対照的な仙台高裁は長期評価について、「多数の専門学者が参加した機関である地震本部が公表したもの」で、「個々の学者や民間団体の一見解とはその意義において格段に異なる重要な見解であり、相当程度に客観的かつ合理的根拠を有する科学的知見であったことは動かし難い」と認定。電力会社社員らが多数を占める津波評価技術をまとめた土木学会の部会にも言及し、「原子力事業者を適正に監督・規制するための見解を策定するには不向きな団体である」と指摘しています。
津波評価技術で福島第1原発の敷地を超える津波は想定されなかったとする国の主張については、部会の委員を務め津波工学の第一人者の今村文彦・東北大学教授が18年12月の口頭弁論で証言し、過去に大地震の発生が確認されていない領域に大地震を想定するか否かの検討もしていない事実が明らかになり、その信頼性が問われました。しかし、判決はこの証言に触れていません。弁護団は「証拠を無視し、愕然(がくぜん)とした」と話していました。
東京高裁は、長期評価を前提に防潮堤を設置しても建屋などの水密化措置を講じても、事故は防げなかったと結論づけました。津波対策は「検討途上にあった」などとして3・11まで津波対策をしなかった東電と国の対応を容認しました。「国の姿勢に無批判で追随している。ゆるみ切った規制権限の考え方で構わないと言っている判決。これではまたどこかで事故があっても避けられない」と同種の訴訟に関わる弁護士が判決後の報告集会で批判しました。
(「しんぶん赤旗」2021年1月26日より転載)