菅義偉首相は、外遊先の記者会見(21日)で、東京電力福島第1原発事故で発生しタンクにためている放射能汚染水について、「できるだけ早く処分方針を決めたい」と語りました。9月に同原発を視察した際にも表明しており、海洋放出処分とする方針を近く決定するとみられています。
復興の努力への妨げ
原発事故で福島の人々の暮らしと生業(なりわい)は甚大な被害を受け、9年以上にわたり復興のため懸命の努力が続けられています。海洋放出となれば農林水産業をはじめ地域への打撃となります。これまでの努力が無にされかねないと、広く反対の声が上がっています。処分方針の決定を強行し、復興を妨げることは許されません。
日本共産党福島県委員会は20日、福島復興共同センターと共同で、梶山弘志経済産業相に対し、海洋放出を行わず当面は陸上保管を継続できるよう対策をとることを求めました。
汚染水には高濃度のトリチウムが含まれ、タンクに123万トン以上ためられ、いまも増え続けています。汚染水処分については、国の小委員会が今年2月に、水蒸気にして大気に放出する案と海洋放出案が「現実的な選択肢」であり、海洋放出の方が「確実に実施できる」とする報告をまとめました。同時に、「風評被害を生じうることは想定すべきだ」として、関係者から意見を聞くよう求めました。
政府が行ったヒアリングでは、農協、漁協、森林組合がそろって「反対」と明言し、商工団体や自治体は、風評被害や復興が遠のくことへの懸念を表明しました。
全国漁業協同組合連合会は、6月の総会で「海洋放出に断固反対する」との特別決議を全会一致で採択しました。10月15日には、関係閣僚に対して、「海洋放出されることになれば、風評被害の発生は必至」であり、その影響は「我が国漁業の将来に壊滅的な影響を与えかねない」として、「我が国漁業者の総意として、絶対反対である」と訴えました。
福島県議会は、復興の努力が「新たな風評によって、水泡に帰すようなことがあってはならない」とする意見書を採択しました。県内59市町村のうち41議会が、海洋放出方針決定に反対・慎重の意見書などを採択しています。他県の県議会の意見書も、「(被災者に)追い打ちをかけるようなことがあってはならない」(宮城)、「拙速に方針を決定しないよう」(千葉)などと求めています。
海洋放出に固執するべきではありません。市民団体からは、大型タンク貯留など具体的な対案も出されています。日本世論調査会による世論調査では、「十分な風評被害対策が実施されるまでは、放出するべきでない」42・7%、「タンクを増設して保管を続けるべきだ」17・9%となっています(福島民報3月8日付)。
福島切り捨てを許さず
事故から間もなく10年を迎えます。今も続く被害と被害者の苦難を考えれば、さらなる困難を押し付けるなどありえません。原発事故の加害者としての政府の責任が根本から問われる問題です。
菅首相の果たすべき責任は、福島切り捨て宣言ともなる海洋放出決定ではなく、被害者と被災地の努力に寄り添い、復興のために誠実に力を尽くすことです。
(「しんぶん赤旗」2020年10月24日より転載)