日本共産党嶺南地区委員会 > しんぶん赤旗 > 「生業」原発訴訟 仙台高裁が断じたもの(下) 国の言動「事業者と一体化」

「生業」原発訴訟 仙台高裁が断じたもの(下) 国の言動「事業者と一体化」

福島第1原発に襲来する津波=2011年3月11日撮影、東京電力提供

 「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の仙台高裁判決は、経済産業省の旧原子力安全・保安院の「姿勢をうかがわせる、エピソード」を取り上げています。事故のおよそ1年半前の2009年8月28日、9月7日に保安院で行われた東電からのヒアリングです。

 当時、地震の専門家が、経産省の審議会で東北地方に大津波をもたらした868年の貞観(じょうがん)津波に触れ、同規模以上の津波の再来の可能性を指摘。そのため保安院は貞観津波を踏まえた福島第1原発の津波評価、対策の状況の説明を東電に要請し、ヒアリングしたのです。

「大騒ぎ避ける」

 その際、保安院の審査官から「JNES(独立行政法人・原子力安全基盤機構)のクロスチェックでは、女川と福島の津波について重点的に実施する予定になっているが、福島の状況に基づきJNESをよくコントロールしたい。無邪気に計算してJNESが大騒ぎすることは避ける」との発言があったというものです。JNESは保安院と連携し、原子力の安全確保に関する専門的・基盤的な業務を実施する機関です。

 規制の対象者である東電担当者の面前で「無邪気に計算してJNESが大騒ぎするのを避ける」という審査官の発言でした。

 判決は「これでは原子力規制機関であるはずの保安院が、原子力事業者である東電の側に立ち、むしろ原子力事業者と一体化して、JNESによる安全性のチェックを阻止しようとしていたとの批判すら免れず、原子力規制機関の担当官としては誠にあるまじき言動であった」と非難しています。

 判決は一連の事実経過から結論的にこう述べています。

 「(東電も国も)『長期評価』の見解による想定津波の試算が行われれば、喫緊の対策措置を講じなければならなくなる可能性を認識しながら、そうなった場合の影響(東電の経済的負担)の大きさを恐れる余り、試算自体を避けようとし、あるいは試算結果が公になることを避けようとしていたものと認めざるを得ない」

 判決ではさらに「長期評価」公表以降も、「津波による浸水で福島第1原発の電源設備がダメージを受けて重大事故に発展し得ることの知見」が積み重ねられ、「経産相において認識し得たというべきである」と指摘しています。

吉井氏の質問も

 その知見の一つとして判決は、事故の5年前の06年3月や10月に日本共産党の吉井英勝衆院議員(当時)が国会で行った質疑を取り上げ、「福島第1原発を含むわが国の原発の電源設備の津波等に対する脆弱(ぜいじゃく)性が深刻な重大事故につながり得ることを前提とした質問がされることもあった」と紹介しています。3月の質問で吉井氏は、津波の影響によって福島第1原発で冷却水を取水できない事態が想定され、最悪の場合は炉心溶融などの危険があることを明らかにし、最悪の事態を想定して対策を取る必要があると国に迫っていたのです。

 事故を防げなかった国は判決を重く受け止めるべきです。(おわり)

(「しんぶん赤旗」2020年10月14日より転載)