きょうの潮流

 老夫妻と長男家族のくらしは一転しました。ふたりは避難所を7回も転々とした後で仮設住宅に入り、子どもと孫は他市へ。にぎやかさはなくなり、さびしさだけが募る日々…▼連綿と歴史を重ねてきたふるさとの地、そこに根づいた生業(なりわい)、そして地域のつながり。そのすべてを、原発事故によって失った人びとの悲しみや悔しさ。南相馬を定点に福島に通いつづけた作家の渡辺一枝さんによる聞き書きからは生の叫び声が聞こえてきます▼あれから10年近いときが過ぎます。しかし、いまも緊急事態宣言は解かれず、事故の収まりはみえません。この痛恨の災害から私たちは何を学び、後世に伝えていくか。それは二度とくり返さないための礎にもなるはずです▼国や東京電力を批判してはならない―。先月20日に開館した「東日本大震災・原子力災害伝承館」(双葉町)が、語り部にそう求めていることが問題になっています。ありのままの事実や思いを話せないのか。被災者からは批判の声があがります▼生業訴訟の初めての高裁判決が国の責任を認めました。「東電の不誠実ともいえる報告を唯々諾々と受け入れ、規制当局に期待される役割を果たさなかった」。原告団は、事故の再発防止や被害者救済のみならず、被災地の復興にとっても大きな意義があると▼国や東電にたいする明確な断罪。それは原発事故が防ぐことができた“人災”であった真実を改めて突きつけました。奪った時間やものの重さと、消えることのない痛みとともに。

(「しんぶん赤旗」2020年10月2日より転載)