安倍政権は、福島原発事故後に求められた原子力・エネルギー政策の見直しを放棄し、原子力に固執し、再生可能エネルギーへの転換を阻んできました。一方で原発からの脱却を望んだ世論を背景に、政府の思惑通りには原発の再稼働は進んでいません。なにより原発固執政策からの転換が必要です。
(松沼環)
2012年の総選挙で「原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立を目指します」などと公約を掲げた安倍晋三氏。しかし、安倍政権発足直後の13年1月には、民主党政権が決定した「2030年代に原発稼働ゼロ」、原発の新増設は認めないとしたエネルギー・環境戦略を白紙で見直すよう関係閣僚に指示。同年2月の施政方針演説では、「安全が確認された原発は再稼働する」と宣言しました。
14年に閣議決定した「第4次エネルギー基本計画」では、原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、原発回帰の姿勢があらわになりました。
経産省が策定した「長期エネルギー需給見通し」(15年)では、2030年度の電源構成について当時稼働ゼロだった原発の割合を20~22%と設定。
18年に閣議決定した「第5次エネルギー基本計画」では、この電源構成の実現に「全力を挙げる」と明記し、50年に向けた戦略で原発を「脱炭素化の選択肢」と位置づけ、原発固執を続けています。
■9基再稼働
15年8月には、鹿児島県にある九州電力川内1号機が、新規制基準施行後としては初めて再稼働。安倍政権下で9基の原発が再稼働しました。再稼働を進めた九州電力などは、太陽光発電などの出力抑制を頻繁に実施し、再エネ拡大の障害となっています。これはベースロード電源とされた原発を優先するためです。
しかし、18年度の電源に占める原発の割合は約6%。政府が30年度の目標とする電力構成比は20~22%(30基以上の原発稼働に相当)です。政権の思惑通りに再稼働が進まなかった理由の一つが、世論の根強い反発です。
事故から9年になる今年の世論調査でも、原発の運転再開に「反対」が56%で、「賛成」は29%(「朝日」2月18日付)。日本世論調査会の調査では、原発について「安全性が向上したと思わない」と回答したのは56%で、63%が「原発を段階的に減らし、将来的にゼロにすべきだ」と答えています。(「東京」3月8日付)
原子力規制委員会がこれまでに、新規制基準に適合しているとして許可を与えた原発は16基。再稼働した原発も、今年1月に広島高裁が伊方原発3号機(愛媛県)の運転を差し止める仮処分決定を出したように、何度か司法判断で原発が停止に追い込まれました。
許可を得た一方で再稼働に至っていない7基は、東京電力柏崎刈羽原発6、7号機や日本原子力発電の東海第2原発などで、地元の反発も強く、今後の先行きは不透明です。
■世論は反対
安倍政権の下で原発の新増設についても、財界・電力業界から要求が繰り返され、エネルギー基本計画への明記を求める意見も出ていました。しかし、世論の反発を恐れて、4次、5次、いずれの基本計画でも明記できませんでした。
一方、安倍政権の下でも原発17基の廃炉が決まっています。東京電力福島第2原発の4基など地元の廃炉を求める声が追い込んだものや、この間も段階的に進められてきた電力自由化で、採算性の低い老朽原発の稼働を電力会社が断念した例などです。
大島堅一・龍谷大学教授(環境経済学)は「安倍政権の下でも原発の再稼働は、もくろんでいたようには進みませんでした。安全性を考えると今の規制委員会の下でも、再稼働にお金がかかりますし、再稼働反対が世論です。温暖化対策のためにも、原発頼みでない、再生可能エネルギーを中心としたエネルギー政策に転換する必要がある」と話します。
安倍政権下の原発・エネルギー関係の動き
12年12月 第2次安倍内閣発足
13年7月 原発の新規制基準施行。各電力会 社、いっせいに適合審査を申請
14年4月 第4次エネルギー基本計画閣議決 定。原発を「重要なベースロード (基幹)電源」と位置づけ、「再稼 働を進める」と明記
9月 九州電力川内原発1、2号機(鹿 児島県)について新規制基準「適 合」の審査書決定。15年に再稼働
15年7月 長期エネルギー需給見通しで30年 度の電源構成を決定。原発の比率 を20~22%、再生可能エネルギー を22~24%、石炭火力26%に
18年7月 第5次エネルギー基本計画閣議決 定。30年度の電源構成目標の実現 に「全力をあげる」と明記
(「しんぶん赤旗」2020年9月13日より転載)