きょうの潮流

 かつて全国の子どもがテレビの「ひょっこりひょうたん島」を楽しみにしていました。岩手県生まれの井上恒(ひさし)さんもその一人。テロップに流れる自分と同じ名前の作者を不思議な気持ちで見つめていたそうです▼成長して井上ひさしの大ファンになった恒さん。彼の文章は本の帯の推薦文まで細大漏らさず集め、詳細な著作目録をつくってきました。研究者の間では知られた存在です▼作家の没後10年にあたる今年、著書未収録のものを集めた『発掘エッセイ・セレクション』全3巻を編集しました。恒さんは「井上さんは辛辣(しんらつ)なことを書いても、つねに目線が低い。それを庶民に届く言葉で書いている」と評します▼例えば「反原発運動は保険料である」という1988年の文章。当時の原子力安全委員長が、想定外の原発事故は「いわば天災の類であって、当事者にとって免責とされる」とかつて発言したことを、「人災を天災にしてしまう」無責任と批判しています。東電福島第1原発事故を予言したかのようです▼実はこの文章の書き出しは「四月馬鹿(エープリルフール)」の話。スパゲティの収穫が始まった、ビートルズの曲が国歌に、硬貨に大量の金が混ざって―。テレビや新聞が報じる欧米などの冗談。対して日本では「冗談の発信者が政財界のお偉方」だとユーモラスにお上をやゆします▼安倍首相も四月馬鹿がお上手。「募っているけど募集はしていない」とか、見当違いの「アベノマスク」とか。あまりの連発に、天国の井上さんもあきれているか。

(「しんぶん赤旗」2020年6月22日より転載)