福島第1原発事故で、東京電力の旧経営陣3人を無罪とした東京地裁判決は、会社の規模などに照らし、3人は「担当部署から上がってくる情報や検討結果に基づいて判断すればよい状況にあった」と判断し、敷地を超える津波に襲われる可能性について情報収集の義務を怠っていないと免罪しました。
3人は、ひとたび事故が起これば、取り返しのつかない結果を引き起こす原発の施設を管理・運営する最高経営層です。万が一にも重大な事故があってはならず、その安全を確保する最終的な義務と責任があったはずです。最高経営層の姿勢は、判決が求める程度でいいのか―。
公判での供述は、3人に、原発に高度の安全性の確保が求められているという自覚があるのかを疑わせるものでした。
責任逃れ発言
勝俣恒久・元会長(79)は、検察官役の指定弁護士から「原発の安全対策が万全かの情報を収集する義務があるのでは」と問われると、「(本店の)原子力・立地本部がしっかりやっている」と繰り返しました。
2009年2月の「中越沖地震対応打ち合わせ」(通称・御前会議)では、担当部長が「もっと大きな14メートル程度の津波がくる可能性があるという人もいて」と発言したのを聞いていますが、その根拠を聞くこともなく、その後、報告を求めることも全くありませんでした。事故前に津波の対応をどう考えていたかを問われて、「問題意識もありませんでした」と答えています。
勝俣元会長から「しっかりやっている」とされた原子力・立地本部の本部長だった武黒一郎・元副社長(73)は「副社長になって対外業務が多く、会社にいたのは半分くらい」で、「(副本部長の武藤被告に)協力してもらった」。武藤栄・元副社長(69)は「決定権限がない副本部長」などと、いずれも責任逃れの発言をしました。
武藤、武黒の両元副社長は、政府機関の地震予測「長期評価」と、それをもとにした福島第1原発に襲来する津波高「最大15・7メートル」の計算結果の説明を受けています。武藤元副社長はその後、長期評価の見解について、津波を評価する従来の手法を作った土木学会に検討してもらおうと部下に指示。しかし、その後に検討状況の報告を求めることもしませんでした。
社会変革阻む
判決はまとめで、「事故の結果は誠に重大で取り返しのつかないものであることはいうまでもない」と述べていますが、どこまで原発被害の甚大さ、深刻さを認識したのか。
事故の責任を追及してきた福島原発告訴団の武藤類子団長は、判決後の会見で「裁判官は福島の事故に真摯(しんし)に向き合ったのだろうか。判決は、最も責任を取るべき人が責任をあいまいにし、二度と同じような事故が起きないよう反省し、社会を変えていくことをはばむものです」と批判しています。
(おわり)
(「しんぶん赤旗」年9月29日より転載)