東日本大震災で、建物の7割以上が全・半壊する壊滅的な被害を出し、津波で東北電力女川原発の一部が浸水被害を受けた宮城県女川町(おながわちょう)。「住民の手で、町づくりを進めたい」と、市民共同発電所の取り組みが広がっています。
(宮城県・佐藤信之)
住民が自然エネで町づくり
「今はまだ2号機のめどが立った段階ですが、もっと拡大して、社会貢献していきたい」。「NPO法人おながわ・市民共同発電所」の松木卓理事長(80)は、1号機が順調に発電していることを公表した7月26日の記者会見で抱負を語りました。
住民の手でつくる自然エネルギーによる「町づくり」をしようと始まった運動は、正会員95人、賛助会員は60人以上、資金提供者(10年間無利子の借入金・寄付)は全国から250人以上に広がり、議会でも12人中7人の町議が賛同し、町の商工会会長も理事を務めるなど、大きな運動になっています(7月現在)。
事務局で理事の高野博さん(日本共産党町議)は、運動の特徴について(1)資金も含め、市民の手でつくる(2)東北電力女川原子力発電所の地元ですが、原発の賛否を問わない(3)被災地で地球環境の保全運動に取り組む(4)収益を女川町の子どもたちへの給付型奨学金に活用する―の四つをあげます。
資金に協力した石巻市の72歳の男性は、「これからの発電を考えると、自然エネルギーを中心にするという趣旨に賛同しました」と話します。
私有地を無償で
最初は困難に直面していました。予定していた土地が借りられず、次を探そうにも被災した女川には、余裕のある土地がありませんでした。行き詰まったところに、趣旨に賛同した地元のかまぼこ製造工場の社長が私有地を20年間無償で貸してくれることになりました。それでやっと、風光明媚(めいび)な牡鹿(おしか)半島のコバルトライン大六天展望台の真下に、敷地面積1330平方メートルの第1号発電所が建設できました。
2月に完成した1号発電所は順調に稼働し、予定通りの収益を出しています。年間の収益から維持費や税金、借入金返済の積み立てなどを引いた残りが、給付型奨学金の原資になります。最初の10年は、一つの発電所から年50万円。町や教育委員会と相談して、教育委員会を通して町の子どもたちに給付します。2019年度からの給付に向けて、給付方法などの協議を教育委員会と始めています。
いま、別の場所に2号機を準備中です。9月中の完成を見込んでいます。二つの発電所で年間100万円。10年を過ぎた借入金の返済完了後は、もっと大きな金額が奨学金の原資にできます。
子育て応援する
理事の木村征郎さん(女川町議)は、「『女川の子どもたちと子育てを応援する町』『自然環境の保全に取り組む町』を女川町の大きなアピールポイントにして、若者、子育て世代を町に呼び込みたい」と語り、夢は広がります。
事務局の高野さんは、「市民の手でつくる発電所ですが、まだ資金が目標額に達していません。この運動を広げるために、ぜひ資金に協力してください」と呼びかけています。
(「しんぶん赤旗」2018年8月19日より転載)