本屋「フルハウス」は4月9日に開店します。
地元の小高産業技術高校の入学式が4月10日なので、お祝いの意味も込めて、その前日に決めたのです。
本の搬入は、4月3日です。そこから本を陳列するという大仕事が待っているわけなのですが、いま急がれるのは、選書です。
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開店時に店頭に並べる本の注文期限が迫っているのです。
真っ先に選んだのは、絵本でした。
わたしたち家族が暮らしている福島県南相馬市小高区は、原発事故によって「警戒区域」に指定された地域です。
原発事故前の人口は1万2842人でした。避難指示が解除されて1年7ヵ月になりますが、まだ2469人しか帰還していません。帰還住民の6割は65歳以上の高齢者です。同居していた長男夫婦は避難先に定住して帰ってくるつもりはないようだ、以前はいっしょにごはんを食べたり、幼稚園の送り迎えをしたりする暮らしの中で、孫の成長を見守っていたのに、今はなかなか会うことができない、と家族の離散を嘆くお年寄りも多いのです。
おそらく、本屋を訪れる小さな子どもは少ないでしょう。
でも、近所のお年寄りが、遠く離れて暮らす孫を思って、絵本を手に取るだろう、と想うのです。
わたしが子ども時分に好きだった作品、この春大学進学で独り暮らしをはじめる息子に読み聞かせてやった作品、図書館で読んでみて、いいな、と思った絵本を選びました。一冊一冊、タイトルと著者名と出版社名を注文リストに打ち込み、つい数日前に500冊に達し、取次(日販)に発注したばかりです。
人が誰かに本を読んでもらうのは、生まれてから6、7年の短い間だけです。
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そして、いつしかわが子に絵本を読み聞かせるようになり、年老いて孫が生まれたら、絵本を送ってやりたいと思うようになるのです。
絵本を手に取ると、肉親との親密な記憶がよみがえります。布団の中のぬくもり、耳元で聞こえる甘やかな声、まぶたが重たくなってくる眠気-、絵本は、からだごと安心だった感覚を呼び覚ましてくれます。
わたしは、「フルハウス」でお年寄りが絵本を手に取ってくれる光景を遠目に眺める瞬間を心待ちにしています。
(ゆう・みり作家 写真も筆者)
(「しんぶん赤旗」2018年2月26日より転載)