日本共産党嶺南地区委員会 > しんぶん赤旗 > 地殻・マントル境界掘削・・日米欧チーム、オマーンで/大昔の海洋プレートで初成功

地殻・マントル境界掘削・・日米欧チーム、オマーンで/大昔の海洋プレートで初成功

(写真)USGSの資料をもとに作成

 日米欧の国際掘削チームが、アラビア半島の東端オマーンで進めている陸上掘削プロジェクトで、大昔の海洋プレート(岩板)を構成していた「地殻」と「マントル」との境界の掘削に成功したことが分かりました。海洋研究開発機構が8日、本紙の取材に答えました。科学掘削で地殻・マントル境界を掘り抜いたのは史上初めて。

 掘削したのは、1億年前の海洋プレートの断片が丸ごと陸に乗り上げたものだと考えられている「オマーン・オフィオライト」と呼ばれる岩体。オマーンからアラブ首長国連邦にかけて長さ500キロメートル、幅80キロメートルの広い範囲に分布しています。

 掘削チームは、オマーン・オフィオライトの地殻からマントルに相当する岩石の連続的なデータを得るため、2016年12月~昨年3月に第1期掘削を実施。昨年11月に第2期掘削を開始していました。海洋研究開発機構によると、今年1月、地殻・マントル境界を含む長さ計約700メートルの岩石コア(円柱状試料)の採取に成功しました。第2期掘削は3月中までに完了し、詳細な分析が進められる予定です。

 地球の深部にある地殻・マントル境界の物質構造は、これまで誰も見たことがなく、地球科学の大きな謎となっています。

 掘削チームで日本メンバーをまとめる道林克禎(みちばやしかつよし)静岡大学教授は「これまで知られていないような地殻・マントル境界の実態解明のヒントが得られる可能性がある」と、今後の分析に期待しています。


解説

“地球史”の謎に迫る

写真

(写真)接岸する地球深部探査船「ちきゅう」=2015年11月、横浜港本牧ふ頭

 日米欧によるオマーン陸上掘削プロジェクトで得られた地殻・マントル境界の岩石コア(円柱状試料)は、地球の進化史の謎に迫るための大きな手がかりとして期待されます。

 マントルは、地球の中心部にある核と、地球表面の地殻との間にある層。地球の体積の8割以上を占めます。地殻の厚さは、大陸で平均35キロメートル、海洋でも約6キロメートルあるとされ、マントルに直接到達するのは至難の業。いまだ人類は“生のマントル物質”を手にしたことはありません。

 今回のプロジェクトは、海洋地殻とマントル最上部からなるかつての海洋プレート(岩板)の断片が陸に乗り上げた岩体を調べることで、1億年前の海洋底の深部構造と形成過程を明らかにすることをめざしています。

写真

(写真)オマーン陸上掘削の作業の様子((C)OmanDrillingProject)

 第1期掘削で得られた、海洋地殻やマントル部分に相当する岩石コアは昨夏、海洋研究開発機構の地球深部探査船「ちきゅう」に運ばれ、船上の最先端機器で分析されました。掘削チームの道林克禎静岡大学教授は、熱せられた海水が地殻内を循環する「熱水循環」の詳細が明らかになるなど「驚くべき結果が得られている」と手ごたえを語ります。

 第2期掘削の最大の焦点は、地震学的な境界「モホロビチッチ不連続面」(モホ面)と地殻・マントル境界との関係を探ることです。これらが一致するのかどうかをめぐって、長年論争が続いてきました。今回、地殻・マントル境界がどのような物質境界なのかを詳しく調べます。

 地球の内部構造(地殻・マントル・核)はゆで卵(殻・白身・黄身)と似ているのか、それとも地殻・マントル境界とは別に、マントル物質中に変成作用の境界があり、それがモホ面なのか―。大きな謎に迫ります。

 一方、海底下の“生のマントル物質”を掘削する計画は、米アポロ計画と同時期の1950年代にスタートした、地球科学者にとっては半世紀の夢です。「月より遠い」とさえ言われる人類未到のマントルを探査船「ちきゅう」で掘削する計画が、10年先を見すえて進められています。(中村秀生)

(「しんぶん赤旗」2018年2月9日より転載)