東京電力福島第1原発事故から6年9ヵ月―。政府の避難指示区域外からの避難者(“自主避難者”)を、統計に計上せず、仮設住宅や公営住宅から追い出す動きが進んでいます。 (柴田善太)
山形県米沢市の雇用促進住宅を管理する独立行政法人「高齢・障害・求職者雇用支援機構」が9月、同住宅に入居する“自主避難者”8世帯の立ち退きを求めて提訴しました。福島県も同様の提訴を検討しています。3月末で福島県と国が“自主避難者”への住宅無償提供を打ち切ったことに連動したもの。機構は「有償賃貸契約の入居者との公平性を考えた」といいます。
深刻な困難抱え
機構から訴えられた、福島市から避難している武田徹さん(76)は「提訴は巨象がアリを踏みつぶすようなもの。裁判で支援再開を求める避難者の声を伝えたい」と話します。
住宅無償提供は“自主避難者”にとって、ほとんど唯一の支援策です。住宅提供が3月に終了した“自主避難者”を対象に、東京都が7~8月に行った調査があります。それによると、「夫が入退院を繰り返し、貯蓄を使い果たして入院費が出せない」「家賃補助が終了すると、生活維持していけるのか不安だらけ」などという深刻な声が寄せられ、必要とする支援のトップは「生活福祉資金等各種貸付」で22・1%となっています。
2015年にNHKと早稲田大学が行った調査では「ローン、借金がある」が“自主避難者”では40・7%(“強制避難者”では19・8%)、「生活費が心配」が同74・6%(同56・6%)となっています。経済的困難だけでなく「避難先で嫌な経験」「相談者がいない」など、“自主避難者”は多くの困難を抱えています。
塩崎賢明立命館大学教授は“自主避難者”の住宅追い出しについて講演の中で「ひとしく恐怖と欠乏から免かれ…」という憲法前文への違反であり、被災者一人ひとりが居住選択の権利を持ち、国が支援するとした、子ども・被災者支援法にも違反していると厳しく批判しています。
きちんと賠償を
“自主避難者”は統計にも計上されなくなっています。
避難者数は全国への避難については復興庁、県内への避難詳報については県が発表します。復興庁は“自主避難者”数を把握しません。福島県内については、県が避難元の市町村別の避難者の数をおさえているので“自主避難者”数の類推が可能です。
ところが、福島県は3月末の住宅提供打ち切りと合わせ、県内への避難者数から“自主避難者”を除きました。たとえば避難指示区域外である福島市民の避難者数は3月発表では377人だったのが5月発表ではゼロになりました。相馬市民の避難者数は3月発表が247人でしたが5月発表はゼロ。同県は「住宅支援が終わったのでカウントから外した」と説明。住宅支援が終われば避難者ではなくなるという扱いです。
福島県いわき市から東京都内に避難している「ひなん生活をまもる会」の鴨下祐也代表は「住宅提供は原発事故という乗電と国の加害に対して行われる当たり前のことで『支援』という性格のものではない。きちんと賠償として対応すべきものだ」と強調しています。
岩渕参院議員に聞く
福島県出身で、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故直後から、日本共産党福島県委員会被災者救援対策本部長として活動した岩渕友参院議員に話を聞きました。
原発事故をうけ、政府が避難指示区域と、それ以外を乱暴に線引きし、賠償も支援も格差をつけたことで、福島県民は分断され、大きな苦しみを背負いました。
避難指示区域外で避難した人も、しなかった人も苦渋の選択です。生業(なりわい)も住まいも失う人。放射線をめぐる考えの違いにより、地域でも家族の中でも分断が起きる事態が起こりました。
このような苦しみをつくったのは原発事故です。その責任は東京電力と原発政策を進めた国にある。この間の前橋地裁、福島地裁の原発訴訟判決も「国と東電は津波を予見し、事故を回避することができた」と国の責任を断罪しています。
それなのに、“自主避難者”の住まいの権利を保障せず、訴訟まで起こして追い出しを図るとはとんでもない。独立行政法人の起こした訴訟だとして、国は無関係を装いますが、住宅提供は本来国が行うべきです。
“自主避難者”への支援もうたった「子ども・被災者支援法」も具体化が必要です。他の野党とも力を合わせ、避難者追い出しをやめさせ、国と東電が被災者の生活と生業の再建に責任を果たし、原発ゼロに政策を転換することを求めていきます。
(「しんぶん赤旗」2017年12月13日より転載)