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南相馬 柳美里が出会う㉖・・我が家を訪ねてくる人々

南相馬市小高区の新居

 引っ越しました。

 搬入日は7月2日。もうすぐ1ヵ月になるのですが、ようやく運び込んだ荷物が家に納まりつつあるという感じで、窓にカーテンを取り付けたのは、昨日のことです。

 段ボールの中に残っているのは、主にわたしの蔵書と資料です。これは棚がないとしまえないので、大工さんに寸法を測ってもらって、工事の順番が回ってくるのを待っているところです。

 我が家は、東京電力福島第1原子力発電所から14キロ地点、旧「警戒区域」内の南相馬市小高区にあります。立ち入りを制限されていた5年の間に「警戒区域」内の家は傷み、大規模な修繕をしなければ住むことはできず、大工さんのところに依頼が殺到しているのです。

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 大工さん夫婦の家は、空き地を挟んで隣にあり、台所の窓から軽トラックに資材を積み込んでいるのが見えます。毎朝、今日はうちに来るかな、と期待を膨らませるのですが、まだ順番は回ってこないようです。

 昨年7月12日に避難指示が解除されて、小高区の帰還住民数は2千人を超えましたが、原発事故前の住民数は約1万3千人だったので、夜、車で町を通り抜けると、家の灯りは疎らです。

 わたしが自宅の1階部分を改装して本屋を開くというニュースがいくつかのメディアで報じられました。

 今年4月に開校した「小高産業技術高校」は、JR常磐線小高駅から徒歩20分の距離にあります。高校生たちが電車待ちできる場所として本屋をイメージし、そのイメージの実現に向かって歩を進めています。

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 開店は11月の予定なのですが、面白いことに、毎日客が訪ねてきます。

 玄関のチャイムが鳴り、「ここが本屋になる場所ですか?」と見知らぬお年寄りが立っているのです。

 小高の住民もいれば、浪江や大熊や双葉の一時帰宅のついでに立ち寄ったという方もいます。

 みなさん、身の上話や趣味や好物の話をして行かれます。

 昨日訪ねてきた80歳の女性は、「いいわぁ、本屋。原発事故でなぁんにも無くなっちゃったんだもん。わくわくするわぁ。早くできないかしらね。本屋があったら、毎日来るわぁ。武者小路実篤が好きで、よく手紙に引用するのよ」ときらきらした眼差しで我が家を見上げました。

 客層は10代後半と、70代、80代―ラインアップが悩ましい。

(ゆう・みり作家写真も筆者)

(月1回掲載)

(「しんぶん赤旗」2017年7月31日より転載)