関西電力高浜原発の運転延長の審査手続きに対応していた40代の課長が長時間労働のすえ、自ら命を絶ちました。電通過労自殺をはじめ違法な長時間労働に批判が広がるなか、関電の職場では…。(名越正治)
福井県最西端、人口1万人余の高浜町。関電労働者が社宅や家を構え、約500人が住んでいるといいます。
訪問すると、「新聞報道で知った」「この件は話せない」と素っ気ない返事です。
長時間労働
ある労働者の家族が思い詰めたように語気を荒らげました。
「みんな、はよ(早く)から知ってる」。自殺した4月20日直後に知れわたっていると明かしました。「黙っているのは、関電の夫や子の昇進に影響するから。誰が話をしていたかは会社に伝わる」
別の家族は、亡くなった課長の代わりに隣接する「大飯原発(同県おおい町)から社員を配転させたようだ」と声をひそめました。
課長は、運転開始から40年たった高浜原発1、2号機の運転延長をめぐって、原子力規制委員会へ提出する資料作成に携わっていました。7月7日までに審査に合格しなければ廃炉になる可能性がありました。規制委に出した資料は8万7000ページに上り、担当者は長時間労働を強いられました。課長は最大月200時間、亡くなった4月は19日までに150時間の残業をしていたといわれています。労働基準監督署が労災を認定しました。
会社かばう
日本共産党の高橋千鶴子衆院議員が10月の予算委員会で原発労働者の残業規制が外された問題を追及。塩崎恭久厚労相は、電力会社(九電)の要望を受けたと答弁しましたが、その後一転し、政府側が外したと答え、電力会社をかばいました。
開電の岩根茂樹社長は10月28日の会見で、「忙しいという状況があったのは事実」と認めつつも、「社員であるかも含めて回答は差し控える」と従来の見解をくり返しました。
「関電らしい体質やな」。高浜原発3、4号機を望む対岸で、つり船業を営む元保守系町議の児玉巧さん(69)は話します。
「原発が4基もあるのに関電は地域振興を全然考えてへん。福島で“安全神話”が崩れ去り、老朽原発1、2号機は廃炉しかない」
病む職場“氷山の一角だ”再稼働優先で長時間労働に
大阪・中之島の関西電力本店や近畿各支社の職場では、高浜原発再稼働に対応した課長が過労自殺した事件がテレビや新聞で報じられると、「擦り切れるまでこき使うて、えげつないわなあ」「過労死するほど仕事を与えたらあかん。けど、それを考えることができる役員こそ必要や」との声がありました。
他方、「心を病んだり、自殺者が出ているのに、あまり驚かなくなっている」との声も少なくありません。
関電OBと労働者らでつくる「電力労働運動近畿センター」の調べでは、精神障害の欠勤者は1995年度に36人、従業員数のO・13%だったものが、2012年度には165人、O・81%と増えています。(図参照)
時間外労働増え
「これは“氷山の一角”。職場は数字以上に病んでいる」と労働者たちはいいます。
6月の関西電力労働組合の大会では、若狭・高浜支部の代議員が「震災以降、原子力部門では時間外労働が高止まりしている」と発言しました。同労組機関紙が報じています。
長時間労働がまん延している事態に対し、関電はこれまで、「全社員が閲覧できる社内ウェブサイトに在職死亡者を掲載していた」(労働者)といわれます。現在、これらは役職者や一部管理職のサイトでしか見られなくなったといいます。
自公政権許さぬ
「私たちは思想差別をされていても、定年退職では職場で盛大に祝ってくれたものでした」。関電の思想差別を裁判闘争でたたかった元原告の坂東通信さん(75)は語ります。
「葬儀も一緒で、職場の大勢で手伝いました。それがいま、自殺した人は社員であるかも明らかにしなくなった。原発の再稼働を優先し、人を人として扱わない電力会社と、かばいだてする安倍自公政権は許せません」
(「しんぶん」赤旗2016年11月20日より転載)