国連気候変動枠組み条約第22回締約国会議(COP22)で、京都議定書に代わる地球温暖化対策の新たな国際枠組み「パリ協定」の具体化作業が始まりました。温室効果ガス排出量が世界第5位でありながら、温暖化対策に不熱心な日本に世界から厳しい視線が向けられるのは必至です。根底には温暖化対策に後ろ向きな財界と、財界言いなりに原発と石炭火力発電に固執した安倍政権の存在があります。
「パリ協定」は昨年12月のCOP21で採択され、今年4月には日本を含む175カ国・地域がニューヨークの国連本部に集まり署名式が開かれました。
G7宣言反する
本来、安倍政権は通常国会(6月1日閉会)に協定の承認案を提出することも可能だったはずです。ところが、丸川珠代環境相(当時)は通常国会終了後の会見で「遅くても来年の通常国会にはと私は思っております」と発言(6月21日)。年内発効に向け努力するとした5月の伊勢志摩サミット(G7、議長・安倍晋三首相)の首脳宣言にも反する姿勢を示しました。
安倍首相は9月の臨時国会の所信表明で環太平洋連携協定(TPP)の早期発効を訴える一方、「パリ協定」には一言も触れませんでした。人類の生存の脅威となる地球温暖化対策より、米国や多国籍企業の利益を図るTPPを優先する安倍政権の姿勢は鮮明でした。
背景には財界の意向があります。経団連は、米国の離脱などを理由に京都議定書を批判し続け、「パリ協定」についても「京都議定書の教訓を踏まえ、各国の対応を慎重に見極める必要がある」(4月8日付)と主張してきました。
ところが、日本が様子見を決め込んでいる間に、二大排出国の米国と中国が9月の20カ国・地域(G20)首脳会議直前に同時に「パリ協定」を批准。一気に年内発効に向けて世界が大きく動きだしたのです。
安倍政権が「パリ協定」の承認案を閣議決定したのは、米中の批准から1カ月以上経過した10月11日。すでに日本抜きの年内発効が確実になっていました。岸田文雄外相は臨時国会の答弁で、「当初の見通しを上回る形で早期発効に向けた機運が高まったことは事実」と、様子見だったことを認めています。
国会には、「パリ協定」の重要性にふさわしい審議を通じて、温暖化対策で足を引っ張ってきた日本が世界に対してどのような役割と責任を果たすべきか明らかにすることが求められていました。
ところが、山本公一環境相の「荒業があってもいい」との暴言にみられるように、安倍政権は国会審議をないがしろにする態度をとり、衆院の委員会質疑をわずか1日で打ち切りました。
再生エネ不熱心
日本政府は「パリ協定」の趣旨にのっとり従来の政策を転換すべきです。現状では、温暖化対策に逆行するルールが持ち込まれる危険性すらあります。
実際、日本共産党の塩川鉄也議員の質問に対し、高木陽介経済産業副大臣は、他の火力発電と比べても大量に温室効果ガスを排出する大規模石炭火発を、「パリ協定」に設けられた2国間クレジット制度(JCM)に位置づける考えを否定しませんでした(11月2日の衆院外務委)。
安倍政権のエネルギー基本計画が、原発と石炭火発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、その輸出を成長戦略の重要な柱にしているからです。一方、世界で飛躍的な普及が進む再生可能エネルギーについては不安定で非効率な“お荷物扱い”です。「パリ協定」を批准して日本が温暖化対策で世界に貢献するためには、エネルギー政策の大転換が不可欠です。(佐久間亮)
(「しんぶん赤旗」2016年11月8日より転載)