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“検証アベノミクス”インフラ輸出(下)・・トップセールス 問題増加

(写真)=JBICのバタン石炭火力発電所建設計画への融資決定に抗議する緊急アクション=6月6日、都内のJBIC本店前
(写真)=JBICのバタン石炭火力発電所建設計画への融資決定に抗議する緊急アクション=6月6日、都内のJBIC本店前

 安倍晋三政権の「インフラシステム輸出戦略」には、「日本政府としてもあらゆる施策を総動員して民間企業の取り組みを支援」すると書かれています。5月の伊勢志摩サミットでも、安倍首相は「質の高いインフラ投資」を打ち出し、今後5年間でインフラ投資に2000億ドル(約20兆円)を投じると表明しました。

 サミット閉幕から1週間後。国際協力銀行(JBIC)が融資を決めたインドネシア・バタンの石炭火力発電所建設事業は、日本のインフラ輸出の実態を露呈させました。

 インドネシアの独立した政府機関である国家人権委員会も、人権侵害が起きていると認定した同事業。2002年のJBICの「環境社会配慮確認ガイドライン」策定論議にかかわった法政大学の松本悟教授は「ガイドラインは、まさにバタンのような事例をなくすためにつくられた」と指摘します。

有害物質を排出

 松本教授は、ガイドライン策定後は住民を軽視した乱暴な事案は減ってきたと語ります。一方、ここ数年「官民連携」や「トップセールス」といった言葉でインフラ輸出が進められるようになって以降、乱暴な事案が再び目立つようになってきたといいます。

 「企業はスピードを求めるし、コストも下げたい。いったん投資した事業から撤退することも、企業としてはできない。また、トップセールスは国のトップ同士で決めてしまうので、下の人間はそれに従わざるを得なくなる。仮に問題があってもものが言いにくくなる」(松本教授)

 石炭火発は最新のプラントでも、温室効果ガスの排出量が液化天然ガス火力の2倍と際立って多いため、欧米では新設禁止の流れが強まっています。

 さらに、同じ最新型の石炭火発でも、国内用と輸出用では環境性能が異なることも明らかになっています。神奈川県の磯子新2号機石炭火発と比べ、バタンで10倍、JBICが融資し稼働中のインドネシア・チレボン石炭火発では22倍も硫黄酸化物の排出濃度が高くなっています。窒素酸化物もバタンが磯子の10倍、チレボンは31倍です。(表)

 インドネシア環境フォーラムのピウス・ギンティンさんは5月に来日した際、日本共産党の倉林明子参院議員と懇談。「稼働中の石炭火発の周りでは呼吸器関連の疾患が増えたり、農作物や塩田が石炭火発の粉じんに汚染されたりしている」と訴えました。

むしろ質が低下

 日本企業のインフラ輸出を支援するため安倍政権は、リスクの高い事業にもJBICが投融資できるよう5月に法律を改定。さらにサミットに向けて発表した文書では、円借款によるインフラ輸出の調査から着工までの期間を、現在の5年程度から最短1年半へと大幅に短縮することも打ち出しています。

  「『環境・持続社会』研究センターの田辺有輝さんは、現在のような状況でJBICの投融資規模を拡大することは、環境や住民合意といった社会配慮の面で問題を増やすことになりかねないと危惧。円借款の着工までの期間短縮についても、「環境調査や住民との対話には、どんなに短くても2年はかかる。期間短縮は現場に圧力をかけ調査を不十分なものにする危険が高い。むしろ質を低下させる方向です」と指摘します。

(この項おわり)

(佐久間亮が担当しました)

(「しんぶん赤旗」2016年7月1日より転載)