2011年の東京電力の福島第1原発事故を受けて脱原発を進めるドイツなどの欧州諸国が、隣国の老朽化した原発に対して相次いで閉鎖を要求しています。多発する事故や不十分な安全審査、寿命を延ばすなどの措置に不安が高まっているためです。
(伊藤寿庸)
欧州の老朽原発
4月20日、ドイツ政府は、ベルギー中部のティアンジュ原発2号炉と北部のドール原発3号炉について、一時停止して詳細な安全審査を行うようベルギー政府に要求しました。
ドイツの原子炉安全委員会が、両原子炉について故障や事故の際に安全性が不十分だとの報告書を発表したためです。
両原子炉は、いずれも1982年から34年間稼働している老朽原発で、それぞれ2022年と23年まで稼働する予定。今回のような正式な停止要求は初めてで、「異例の手続き」(フラスバート独環境副大臣)です。
二つの原子炉は、12年に圧力容器にひびが見つかり、翌年まで運転停止になりました。14年3月にも圧力容器の耐久性の検査で問題が発覚し、再び停止していました。昨年(2015年)11月にベルギーの原子力規制庁(AFCN)が安全に支障はないと再稼働を認めていました。
また両原発では、ベルギーの首都ブリュッセルでテロ事件が起きた今年3月22日、原発を狙ったテロの可能性もあるとして、全職員の非常退避命令が出ました。
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4月11日には、ルクセンブルクのベッテル首相が、同国を訪問したフランスのバルス首相との共同記者会見で、国境から仏領内に9キロ入ったカットノン原発の閉鎖を求め、事故があれば「ルクセンブルクは地図から消え去ってしまう」と述べました。同原発廃炉への資金提供の用意があるとも訴えました。
同原発は1986年稼働開始の老朽原発。相次ぐ事故を受け、2年前にルクセンブルクは50万人の国民全員にヨウ素剤を無料で配布したことがあります。
同原発から12キロしか離れていないドイツでは今年2月、同原発が老朽原発に対する欧州の最低限の安全基準も満たしていないとの報告書が出されました。
ドイツ緑の党の国会議員団が委託したこの報告書では、「安全に関するかなりな分野で、同原発の基準は、最新の科学技術に沿ったものとなっていない」と指摘。同議員団の原子力政策担当ジルビア・コッティングウール議員は「あまりに劣悪で危険。ただちに閉鎖しなければならない」と語っています。
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3月には、ドイツ国境に近い仏最古のフェッセンハイム原発に対し、ドイツが廃炉をあらためて要求しました。
同原発で2014年4月、水漏れが起き、電気制御システムが浸水しました。ところが最近になって、2基の原子炉のうちの1基が制御不能となって核分裂抑制のためのホウ素を注入する事態となっていたことが判明。フランスの公式の報告は、このことに触れておらず、かねて近隣諸国や市民団体から批判を受けてきた同原発の事故を軽く見せようとした可能性もあります。
ドイツのヘンドリクス環境・原子力安全相は、「フェッセンハイム原発を廃炉にせよと私たちが仏政府に要求してきたのは、十分根拠があったということをこの事故は示している」と語りました。
仏のローヌ川沿いにあるビュジェ原発に対しては、今年3月、スイスのジュネーブ州政府が「住民の生命を意図的に危険にさらし、水を汚染している」と批判しました。
逆にスイス国内のライプシュタット原発は、緊急システムが2014年に11日間働いていなかった事実が15年になって発覚。2キロしか離れていないドイツ政府は同原発の「不十分な安全文化」を批判しました。
(「しんぶん赤旗」2016年6月3日より転載)