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規制委員長ら「圧力」・・川内原発モニタリングポスト報道/住民「トンチンカンな対応だ」

 原発事故が起こった際に住民避難を判断するためのモニタリングポスト(放射線量測定局)の態勢について論じた朝日新聞の報道について、田中俊一原子力規制委員長が「犯罪的」など強い言葉で非難しています。原子力規制庁は同様の報道をした他社への「事実関係の確認」にも乗り出しました。報道への威圧的対応や異論を排除する姿勢に、住民は「どっち側を向いているのか。トンチンカンな対応だ」と不信感をつのらせています。

(中村秀生)

 

低線量計と高線量計の両方が設置されている環境放射線監視センターのモニタリングポスト(川内原発から約11キロメートル)。
低線量計と高線量計の両方が設置されている環境放射線監視センターのモニタリングポスト(川内原発から約11キロメートル)。

 再稼働した九州電力・川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の周辺に設置されたモニタリングポストのうち約半数は、住民をすぐに避難させるかどうかを判断する基準値(毎時500マイクロシーベルト)を測定できない・・。

 朝日新聞は3月中旬の記事で、こうした実態を紹介し、「住民避難の態勢が十分に整わないまま、原発が再稼働した」と指摘。社説でも取り上げました。

 これに対して規制庁は3月15、17の両日、記事は「誤解を生ずるおそれがある」と見解を発表。判断に必要十分な性能をもつ線量計が適切に配置され、国の原子力防災会議で了承されていると主張しました。

 16日の規制委会合で更田(ふけた)豊志委員は、測定の″守備範囲″の違う線集計を、ばらけて配置した方がぜいたくだという考え方もあると説明。田中委員長は会見で、高線量を測れない検出器があるのは「当たり前のこと」だと繰り返し

ました。

説明責任は

 では、国や電力会社は、検出器の配置の考え方や状況を十分に広報し、原発の周辺住民に伝えていたのか。

 「反原発・かごしまネット」の向原祥隆代表は、今回報道されるまで、毎時500マイクロシーベルトを測定できないモニタリングポストがあるという事実は、ほとんどの住民に伝わっていなかったのではないかと指摘します。鹿児島県原子力安全対策課は「測定値は公表しているが、ご存じない方もいらっしゃるかもしれない。(どれくらい伝わっていたか)見立ては難しい」と言います。

 規制委会合で伴信彦委員が、記事に批判的な見解を示しつつも、情報発信についての努力や工夫を規制庁側に注文したことは、筋が通った対応です。

 ところが、会合での田中委員長の発言は、国や電力会社の説明責任を棚に上げ、矛先を報道に向けたものでした。「原発の立地自治体とか周辺の方たちに無用な不安をあおり立てたという意味では、非常に犯罪的だと思っている」。攻撃的な表現が、ほかの委員の発言と比べて際立ちます。

 さらに23日の会見では、十分な態勢かどうか、無用な不安かどうか、評価が「分かれるはずがない」とまで言い切り、異なる見解を切り捨てました。

 規制庁は、朝日新聞に厳重抗議し、同様の報道をした他社にも「どういう経緯でこういう記事になったのか」など事実関係の確認を行い、それを踏まえて取材対応すると表明。言論への圧力には当たらないとする一方で、同様の記事を載せた産経新聞を名指しして「記事は最初に(ネット上に)アップされたけれども、すぐ消された」ので取材対応の制限はしないと、うけあいました。

住民の思い

低線量計のみが設置されている市比野小学校敷地内のモニタリングポスト(川内原発から21キロメートル)=上記の写真=日本共産党の井上勝博・薩摩川内市議提供  
低線量計のみが設置されている市比野小学校敷地内のモニタリングポスト(川内原発から21キロメートル)=上記の写真とも=日本共産党の井上勝博・薩摩川内市議提供

 田中委員長と規制庁の異論封じとも受け取れる過剰反応を、住民はどう受け止めているのか。

 向原さんは、「無用な不安をあおった」という田中委員長の発言に反発します。「住民はもともと不安をもっている。『よらしむべし、知らしむべからず』ということか。不都合な情報を隠そうとする姿勢が鮮明になった」と批判。モニタリングポストの25台が2年間も断続的に測定不能だったことを県が隠していた問題(昨年11月発覚)や、九電が免震重要棟の設置を再稼備後に撤回した問題をあげて、「またか、という感じだ。態勢の充実を求めるのが、規制委の当たり前の姿ではないか」と訴えます。

 「川内原発建設反対連絡協議会」(鳥原良子会長)は18日、鹿児島県に対して、毎時500マイクロシーベルトを測定できる検出器の追加設置などを求めました。本紙の取材に県は、現在の態勢で十分であり、検出器を追加する予定はないとしています。

 鳥原さんは言います。「私たち地域住民は、事実の隠蔽(いんぺい)や矮小(わいしょう)がなされることが、もっとも不安なのです。事実をきちんとしかも早く知らせることで、信頼関係は築かれると思いますが、電力会社も規制委も政府も逆のことを行ってきているので、彼らを信頼できないでいるのです」

 

原発事故での避難の判断

 規制委が定めた原子力災害対策指針は、緊急時の避難などの判断について示しています。

 ■原発から約5キロ圏内(予防的防護措置準備区域=PAZ)では、放射性物質の放出前に予防的に避難します。

 ■原発から約5〜30キロ圏内(緊急時防護措置準備区域=UPZ)では、屋内退避が基本ですが、各地域の空間放射線量率にもとづいて避難します。毎時20マイクロシーベルトが1日読いたときには、1週間程度で一時移転。毎時500マイクロシーベルトを測定したときには、(移動困難な場合を除き)数時間以内に即時避難します。

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 規制庁は、緊急時モニタリングには一般的に3種類の検出器が使われており、ヨウ化ナトリウム式検出器(通常レベル〜毎時80マイクロシーベルト程度)、電離箱式検出器(毎時1マイクロシーベルト〜10万マイクロシーベルト程度)、半導体式検出器(毎時0・2マイクロシーベルト〜1万マイクロシーベルト程度)など、検出器の種類によって測定できる範囲が異なると説明。低線量計(ヨウ化ナトリウム式)と高線量計(電離箱式)の検出器を、同一箇所に配置するケースと、分散して配置するケースのどちらも選択できるとしています。

 鹿児島県によると、川内原発ではUPZ内に48カ所のモニタリングポスト(検出器49台)があり、高線量計と低線量計の両方を設置しているのが1カ所(2台)。即時避難め判断基準となる毎時500マイクロシーベルトを測定できない低線量計のみの設置が22カ所。高線量計のみの設回が25カ所です。その他に、可搬式のモニタリングポストが44台あり、そのうち30台は毎時100マイクロまでしか測定できないタイプです。

 川内原発に読いて再稼働し、トラブルや大津地裁の仮処分で運転を停止した関西電力・高浜原発がある福井県に隣接する京都府では、UPZ圏内に設置したすべてのモニタリングポストで、複数の検出器を組み合わせるなどして、低線量から高線量までの測定が可能だといいます。

(「しんぶん赤旗」2016年4月3日より転載)