「こんなにかかるとは思わなかった。去年(2015年)には入居できる計画だったのに、完成が来年(17年)に延びたんだもの。夫とは『仮設住宅で死にたくないね』と話し合っている」
岩手県釜石市の大久保律子さん(70)は、災害公営住宅の完成を心待ちにしています。
夫婦で漁業を営む大久保さんが暮らしている仮設住宅は、船のある港まで車で30分かかる場所にあります。
「今の仮設か、海近くの公営住宅かで、自宅を出る時間が全然違ってくる。私はまだまだ働きたい。働ける年齢のうちに、早く海の近くに住みたい」
岩手、宮城、福島の3県では、今なお6万人近い被災者がプレハブづくりなどの応急仮設住宅で暮らします。
各県が公表した災害公営住宅の完成状況(1月末時点)は、1万4000戸余り。計画戸数の2万9562戸の半分ほどとなっています。
完成率が2割以下たった昨年と比べると、一定の前進はありましたが、資材高騰や人手不足などが完成を遅らせています。
一方、完成した災害公営住宅でもさまざまな問題も生まれています。
釜石市内の災害公営住宅に昨年、入居した佐々木トシさん(83)が驚いたのは、流し台の照明のスイッチがとても高い場所にあることでした。
つま先立ちで、目いっぱい背伸びしながら、手に持ったオタマの柄でスイッチを入れます。
さらに、この住宅では電源の場所が2メートルほどの高さにあるなど高齢者には不便な造りが目立ちます。
「イスや踏み台で高いところに登ると転倒やケガが怖い。壁にくぎを打つのが禁止されていて、棚も付けられず、とにかく不便」と語る佐々木さん。
同じ公営住宅に住む柏山セツさん(82)も「部屋の中があまりに不便で、仮設住宅の方がまだよかったと思うときがあるくらい上と言います。
150戸余りの災害公営住宅ですが、住民の3割超が高齢者。
市内各地の被災者が集まっており、住民同士の関係はまだ希薄です。1人暮らしの高齢者が多く、孤独死などへの不安を抱える住民も少なくありません。
佐々木さんらは、周囲に異変を知らせる「非常呼び出しブザーを配布することなどが必要だと考えています。
佐々木さんは言います。「住んでみて、いろんな問題があることがわかった。改善してほしいし、これから造る公営住宅を、もっと快適で使い勝手が良いものにしてほしい」
(矢野昌弘)
(つづく)
(「しんぶん赤旗」2016年3月4日より転載)