【パリ=島崎桂】「気候変動は人権侵害にあたる」として、オランダ政府に気候対策の抜本的な強化を求める裁判が同国のハーグで始まりました。訴訟を準備したのは、再生可能エネルギーの拡充による「持続可能社会」への移行を求める非営利団体(NPO)Urgenda(ユルジェンダ)。約900人の原告団には大学教授や教師、企業家、芸術家に加え、父母を代理人とした多くの子どもたちも参加しています。
対策強化求める
4月14日に行われた訴訟は、同NPOが2013年11月に提訴していたものです。気候変動対策に向け、政府を法的に拘束する試みは欧州で初めて。気候変動から市民を守る根拠に人権を挙げた訴訟は世界初とみられます。
オランダ最高裁の首席法務官は同国メディアに対し、「裁判所が国家に効果的な気候変動対策を取るよう強制することは可能だ」と指摘。「訴訟は、気候変動への政治的無関心を打破する唯一の方策だ」と話しました。
訴訟では、オランダ政府に対し、▽産業革命後の世界平均気温2度以上の上昇は「世界規模の人権侵害」にあたると宣言すること▽気温上昇を2度以内に抑えるため、温室効果ガスの排出削減ペースを大幅に早めること―を求めています。
オランダ人初の宇宙飛行士で、晩年は環境問題に取り組んだウッボ・オッケルス氏(故人)の妻ヨース・オッケルスさんも原告の1人。英紙ガーディアンに対し、「誰もが政府に(気候変動対策の)行動を求めているのに、政府は動かない」「訴訟が成功すれば、政府は行動せざるをえない」と語りました。
今年末にパリで開かれる国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)に向け、各国は温室効果ガスの削減目標案の策定を進めています。オランダが加盟する欧州連合(EU)は、「2030年までに1990年比で40%削減」を表明しました。
ただ、多くの専門家は、2020年までに1990年比で40%削減しても、気温上昇が2度未満となる可能性は50%にとどまると指摘。欧州の環境団体などは、EUによるさらなる削減目標の引き上げを求めています。
オランダでの訴訟に呼応し、隣国ベルギーでも市民らによる同様の訴訟準備が進んでいます。
(「しんぶん赤旗」2015年4月19日より転載)