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科学の目でリスク見つめ、被災者全体の連帯めざす・・福島の医師として今伝えたいこと 福島医療生協・わたり病院医師 齋藤紀さんに聞く

saitou 福島で医師として住民の生活と健康に向き合っている福島医療生協・わたり病院医師、日本原水協代表理事の齋藤紀(おさむ)さん(67)に、東京電力福島第1原発事故から4年たった今、伝えたいことを聞きました。

(柴田善太)

 

■放射能の知識を広げる

 ─この4年間どんな活動をしてきたのですか。

 まず、病院と地域を守る活動ですね。事故から1、2ヵ月は毎朝全職員が集合して、事故状況、避難所支援の状況確認、患者さんの不安などへの対処など議論を重ねました。

 福島県は被災3県で唯一、医師、看護師が激減し、事故前の2010年と12年の比で医師が約120人、看護師は600人以上減りました。わたり病院は、病院を維持し地域住民、避難者の診療を続けることができました。

 放射能の知識が渇望されていたので、福島県内を含め、全国で話をしてまわりました。中学校で話をする機会もあり、悩みましたね、子どもにどう話せば伝わるかと─。

 演壇に登るとき、ふっと思いついたんです。謝ろうと。「原発事故を防げなかったことを、おとなの一人として子どものみんなに謝罪する」と最初に話しました。スタンスがはっきりしたというのですかね。これで心が落ち着きました。

 ─原発事故による被害を細胞病理学と社会病理学との統一として説明されていますね。

 放射線も含め人間の細胞が傷つけられる場合、これを解明するのが細胞病理学です。同時に、今回は原発事故によって一定の地域が傷つけられた。傷とはいったいなにか、どうしたら回復することができるのか。自然科学と社会科学の両方の目と心を持って考えることが必要です。

 

■甲状腺がんの現状

 ─甲状腺がんの現状を現時点でどう見ますか。

 福島県の18歳以下の甲状腺検査が13年度で一巡しました。11年度は双葉郡中心、12年度は中通り中心、13年度はいわき、会津地方と、汚染度の高い地域から行いました。

 がん、またはがんの疑いの率は11年度0・033%、12年度が0・040%、13年度が0・033%とほぼ同率です。しこりの大きさもそれぞれ平均14・1ミリ、14・5ミリ 、13・3ミリとほぼ同程度です。

 放射線による甲状腺がんは若年齢ほど感受性が高いとされています。

 福島県の甲状腺調査で、がん、またはがんの疑いとされた人について、構成を年齢別でみると、0〜5歳はなし、6〜9歳が4・6%、10〜18歳が95・4%です。チェルノブイリ事故のベラルーシの0〜5歳が60・2%、6〜14歳25・2%、15〜19歳14・6%とは逆のパターンになっています。ベラルーシの場合は汚染された牛乳を飲み続けたこと、国土が海に面しておらずヨウ素欠乏地域であったことの影響があります。

 甲状腺被ばく量50ミリシーベルトが安定ヨウ素剤の投与判断レベルとされていますが、今回、直接計測の調査ではそれを超える事例は確認されていません。

 どの程度のリスクがあるのかをつかむことが住民を冷静な判断に導きます。

 被ばく量の実態、エコーによる発見率であること、かつ地域差がないこと。これらの状況から見れば、現時点で放射線によるがん発症増加が明確になったということは困難です。

 しかし、放射性ヨウ素のリスクは長期にわたるため、息の長い調査が必要です。同時にそれは親と子の人生にとって深刻な心理的負担となります。住民の意向を踏まえることも考慮しなくてはいけません。

 現在、甲状腺検査は2巡目に入っています。ここで、がん、またはがんの疑いの事例のパーセンテージを慎重に見定めてゆくことが大切です。

 

■崩れた社会の再建へ

 ─社会病理学という点では、どうでしょうか。

 崩れた社会の再建という点ではなかなか解決できていません。これほどの苦難を強いたにもかかわらず原発再稼働を目指す、分断を持ち込むなど国と東電の姿勢が元凶としてあります。

 同時に、避難した人と残った人の複雑な感情、放射線の影響をめぐる問題で不安や風評が絡みあっています。

 重要なことは避難の別にかかわらず生活や心の困難を抱えていることです。私は対立するのでなく、ともに手を握り生きていこうと機会あるごとに話しています。ともに原発事故の被害者なのですから。

 科学の目と具体的な努力でリスクを克服する、孤立せず手をつないで生活と生業(なりわい)を再建する、地域の復興の視点を捨てない。

 私は被災者全体がやがて連帯できることを確信しています。

(「しんぶん赤旗」2015年3月22日より転載)

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