原発をゼロにし、太陽光や風力など再生可能エネルギーを大幅に導入することは喫緊の課題です。その一方で「資源は十分なの?」「不安定ではないの?」などの声もあります。20年以上にわたって再生可能エネルギーを研究してきた環境学会前会長の和田武さんに聞きました。(君塚陽子)
環境学会前会長 和田武さんに聞く
再生可能エネルギーには太陽からやってくるエネルギーと、それが形を変えた水力、風力、バイオマス(植物や動物由来の資源)、地球内部からやってくる地熱などがあります。
国連開発会議は、世界の再生可能エネルギーの利用可能量(ポテンシャル)は、年間消費量の16~17倍に上ると推定しています。世界には消費量をまかなう十分な資源が存在しています。
いま世界各国は、再生可能エネルギーの利用を増やしています。めざましく伸びているのがデンマークとドイツです。(グラフ)
デンマークは2011年、「私たちの未来エネルギー」計画で2050年には、電力や熱、輸送燃料など全てのエネルギーを100%再生可能エネルギーでまかなうというシナリオを掲げました。
じつは、デンマークは風力とバイオマスが中心で、ほかの資源は乏しいのです。土地の高低差が少ないため、水力は見込めず、地熱も乏しく、山がないので森林資源も少ない。北に位置し、太陽光も日本に比べれば少ない。
それでもさまざまな工夫をしています。先日調査で訪れたコペンハーゲンでは、3千メートル以上の深さから77度の地下水をくみ上げ、その熱を地域暖房に使うという「地中熱」の利用を始めていました。海上風力発電も開発し、電気の30%は風力由来です。
日本はどうでしょうか。環境省などの利用可能量から年間発電量を算出すると、5兆キロワットアワー以上になることが分かりました(表)。これは最近の年間発電量の4~5倍に相当します。日本は、熱や輸送用燃料も含め、100%再生可能エネルギーでまかなうことが十分可能な資源大国です。
緩やかな変動に
学習会では「自然頼みで安定するのか」といった疑問も出されます。もちろん、風力も太陽光も1基では発電量は激しく変動しますが、数を増やせば緩やかな変動になります。
太陽光発電も、各地に設置されれば、たとえば東京は曇りでも大阪は晴れ、というように各地の天気は違うので変動が少なくなります。太陽光と風力を組み合わせると、よりなだらかになります。夜、太陽光発電はできませんが、風は強くなり、発電量が増えます。
最近の気象予測の精度は高くなりました。ドイツでは日射量、風力などの気象データを入力して、発電量を予測しています。さらに需要量も予測し、不足する場合はガス火力発電などで補います。補充手段もゆくゆくはバイオマス発電や地熱発電などが考えられます。
蓄電でいえば、いろいろな技術があります。
買い取り始まる
昨年(2012年)7月、日本でも再生可能エネルギーの電力買い取り制度が始まりました。太陽光などの発電設備の所有者は、総必要経費が補償されるだけの売電収入が得られる、買い取り用財源は電力料金への賦課金として国民が負担する、という仕組みです。
いま各地で大企業を中心にメガソーラー建設が目白押しです。大切なのは、地域や国民主体の発電事業が各地に起こり、賦課金を国民・地域に還元させる状況をいかに早くつくるか、ということです。私が代表を務める自然エネルギー市民の会も、広島市や原発被害を受けた福島県の土地で市民出資の太陽光発電所づくりを進めています。
自治体にも新しい動きがあります。滋賀県湖南市は、「自然エネルギーは地域固有の資源」「地域主体が地域の発展に資するように活用する」という趣旨の条例を制定しました。このような条例を広げていくことも大切です。
持続可能社会へ
日本で再生可能エネルギーが普及すれば、どんな末来が拓けるでしょうか。
原発の危険からの解放、CO2削減による地球温暖化防止、産業の発展と雇用創出、エネルギー自給率の向上、農山村などの自立的発展…。世界に誇れる持続可能な社会を実現できる可能性があります。
国際的にも、危険な原発を他国に売り込むのではなく、再生可能エネルギーの技術協力などの貢献ができます。
いま私たち市民が、どれだけ力を発揮するのかが問われていると思います。
わだ・たけし
京都大学大学院工学研究科修士課程修了、工学博士。立命館大学教授・同特別招聘(しょうへい)教授を12年間務める。経産省・再生可能エネルギー特措法「調達価格等算定委員会」委員。主な著書に『市民・地域主導の再生可能エネルギー普及戦略』など。