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柏崎刈羽原発 不信の渦・・ID不正使用・安全工事未完了…

柏崎刈羽原発

容認派からも東電の適格性問う声 新潟

 「東京電力も規制委員会も『適格性』がないのではないか」「一体何を信じろというのか」―。新潟県の柏崎刈羽原発(柏崎市・刈羽村)の再稼働をめぐり、東電のID不正使用や安全工事未完了などの重大問題が相次いで発覚。東電だけでなく規制当局に対しても地元住民の批判が続出し、容認・推進派の不信感も高まっています。(新潟県・伊藤誠)

 ID不正使用問題とは、東電の社員が昨年9月20日、他人のIDカードを不正に使用して原発心臓部の中央制御室まで入室した問題です。1月23日に発覚しました。

東電と規制当局への批判が相次いだ原子力規制庁の住民説明会=2月12日、新潟県柏崎市

●「規制庁が隠蔽か」

 原発をなくす新潟県連絡会の小市信事務局長は「東電の不正隠しの体質は変わっていない。説明会で安全対策とエネルギー事情を強調し、再稼働の姿勢は崩していない。規制庁も再稼働ありきだ」と批判します。

 柏崎市が2月12日に開いた原子力規制庁による住民説明会には約110人の市民が参加しました。

 規制庁の職員がリモートで、7号機の再稼働に向けた「設置変更許可」「保安規定(運用ルール)変更認可」など三つの審査全てが終了したことを説明。合わせてID不正使用について報告しました。

 規制庁は、原発施設はテロなど外部からの侵入、破壊を防ぐ核セキュリティー対策を何重にも設けていると説明しました。しかし、複数回のエラーや複数の警備員が別人ではないかと疑念を持ったにもかかわらず、3重の入域チェックを通過し入室していました。ID情報の書き換えも行われました。

 東電は翌日に不正入室を把握しましたが、原子力規制庁には報告したものの、公表しませんでした。規制庁が原子力規制委員会の更田豊志委員長に報告したのは4カ月後の今年1月19日でした。規制委員会は9月23日に東電の原発を動かす適合性審査の「合格」を判断していました。

 報告・公表の遅れに対して、住民からは、「規制庁が問題を隠蔽(いんぺい)したのではないか」と批判が上がりました。

 規制庁は「意図的に隠したわけではない」「すぐに報告する必要はないと判断したことが甘かった」と釈明しました。今回の不正使用について、安全確保の重要度を示す4段階評価で、当初は1番下の「緑」で考えていて、報道をうけて再検討し、下から2番目の「白」の判断にしたことを明らかにしました。

 参加者から「世界一厳しい新規制基準を適用したと言うが、機器が優秀でも、運営者や規制当局が世界一生ぬるい機関ではないか」「誰が原発の安全を守る責任を負うのか。とても住民は安心できない」と厳しい声が上がりました。

原子炉建屋内を視察し、説明を受ける藤野氏ら=2018年8月24日、新潟県刈羽村

●「信頼関係崩れる」

 東電は、IDの不正使用が発覚した4日後の1月27日、7号機の新規制基準に基づく安全対策工事が完了していなかったと発表しました。1月13日に「工事が12日に完了した」と発表し、14日に住民説明会の日程(県内5カ所)を公表。その説明会を25日に始めたばかりでした。

 27日に刈羽村で行われた住民説明会。東電がID不正使用と安全工事の未完了について重ねて陳謝したものの、住民からはウソをついていたのかと怒りの声が上がりました。説明会の前提が崩れているのだから説明会は中止すべきとの声も出されました。

 さらに東電は2月15日、建屋内に火災感知器が取り付けられていなかった新たな工事未完了を発表。翌16日の刈羽村議会で東電新潟本社代表が改めて陳謝。村議からは「ID不正は重大問題。保安規定(原子力事業者としての7つの基本姿勢)にあるように社長が責任を負い出直すべきだ」(日本共産党・池田力村議)など批判が噴出。原発推進派の議員からも「信頼関係が崩れかけている」と厳しい意見が出されました。

 翌17日にも核物質防護規定に違反する「侵入検知の設備の損傷」を公表。3月3日には4例目の工事未完了を発表しました。

 再稼働を容認している桜井雅浩・柏崎市長も「東電の資質・適格性を疑わざるをえない」と言及し、2月26日の県議会代表質問では自民党県連幹事長が「東電に原発を運転する適格性があるのか疑問との意見もある」と述べざるをえない状況です。

 東電は、営業運転が可能になる時期を今年6月としていた計画について「未定」に変更する申請書を規制庁に提出しました。

●「異常な動き」追及

 しかし、東電と経産省は来年6月の知事選前に再稼働させる動きは変えていません。

 花角英世知事は、原発の安全性を検証する県技術委員会について、東電を厳しく追及してきた立石雅昭新潟大学名誉教授などを「高齢化」を理由に再任しないとしています。地元同意の地ならしといえます。

 立石氏は「政界、財界、学会が総力を挙げて柏崎刈羽原発の再稼働を実現し、再稼働反対の県民世論がつくられてきた新潟県から再稼働への道を開く狙いがある」と指摘します。

 日本共産党の藤野やすふみ衆院議員は、2月25日の衆院予算委員会で資源エネルギー庁長官や経産省幹部らが約1年間で80回も新潟県入りした「異常な動き」を厳しく追及しました。

 今冬の豪雪では、車を車庫から出すこともできず「原発事故が起きても避難できない」課題も浮き彫りになりました。地元住民からは「子や孫に故郷に帰ってこいと言えない」という苦悩の声も上がっています。

 「原発再稼働の是非を県民が決める会」は、花角知事に対して、公約である原発の徹底的な検証と再稼働の是非の判断に県民の声を反映することを求める署名運動を3月から始めました。

 藤野議員は、「柏崎刈羽原発の再稼働に向けて、規制委員会も経産省も県も、県民の意思そっちのけで前のめりになっている。今こそ立場の違いを超えて『これらの問題をそのままにして再稼働を決めるな』という声を上げるときだ」と話しています。

(「しんぶん赤旗」2021年3月12日より転載)