「勝訴」「再び国を断罪」「被害救済前進」―。東京電力福島第1原発事故について国と東電の責任を明確に認定、断罪した仙台高裁判決があった9月30日、裁判所前には多くの原告、支援者らが駆けつけ、歓喜の渦に包まれました。
午後2時半ごろに判決内容が伝えられると、湧き起こった拍手が鳴りやみませんでした。
「みなさん、国の責任が明確に断罪されました」と拳を高々と上げたのは中島孝原告団長。「国の責任を認めない判決が多い、あしき流れをきっぱりと断ち切った」と力を込めました。
涙を流して喜んだ原告の山本鉄雄さん(85)=福島県磐梯町=は「私は樺太(サハリン)からの引き揚げ者で、原発事故で二度の大戦にあったような思いだ。二度と事故がないように」と話しました。
仙台市で報告集会・記者会見を開いた弁護団共同代表の菊池紘氏は、今回の判決が「国はやるべきことをやらなかったと、事実をあげて批判し、その是正を求めている。“国の責任は二次的なもの”という一審の福島地裁判決を乗り越え、東電と連帯し全額について国は責任をもち支払うべきだと明確に言っている」と指摘。「この大きな流れは仙台から全国へ広がる」と強調しました。
判決を喜びつつ、「汚染された大地に種をまき、放射能が検出されるかもわからない野菜を育ててきた。汚染された大地は元に戻らない。お金の問題ではない」と悔しさを口にしたのは、福島県須賀川市で農業を営む原告の樽川和也さん。今後のたたかいへ決意をのべました。
「原発再稼働がまた進もうとしている。福島と同じ原発事故を出さないために、私はこれからも声をあげ続け、後世に原発を残してはならないと訴えたい」
「大きな意義」 原告団・弁護団声明
「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟原告団と同弁護団は30日、仙台高裁の判決を受けて声明を出しました。声明は「本判決が、国と東京電力の責任を認めたことは、事故の再発防止や被害者の全面的救済のみならず、被災地の復興にとっても大きな意義がある」と指摘しています。
そして「国と東電は司法判断を真摯(しんし)に受け止め(1)上告を断念すること(2)責任を認めて謝罪すること(3)「中間指針」などに基づく賠償を見直し、強制避難、区域外(自主的)避難、滞在者などすべての被害者に対して被害の実態に応じた十分な賠償を行うこと(4)被害者の生活・生業の再建、地域環境の回復、健康被害の予防の施策の具体化(5)原発を即時稼働停止し、廃炉にすること」を要求しています。
解説 生業訴訟 仙台高裁判決・・原発頼みから転換を
東京電力福島第1原発事故をめぐって国や東電に損害賠償を求めた各地の集団訴訟で、30日の「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟控訴審判決で仙台高裁が高裁レベルで初めて国の法的責任を認定しました。
争点は、第1原発に襲来する大津波を予見できたかどうか、事故を防げたかどうかです。判決は、国の主張をことごとく退けました。
たとえば、国の地震調査研究推進本部(地震本部)が2002年7月に公表した地震予測「長期評価」について、別の見解が支配的だったなどと理由づけて規制権限を行使するだけの合理性がないと主張しました。しかし、判決は、「長期評価」の見解の信頼性を論難する国の主張は採用できないと指摘。「長期評価」は「個々の学者や民間団体の一見解とはその意義において格段に異なる重要な見解であり、相当程度に客観的かつ合理的根拠を有する科学的知見であったことは動かし難い」とし、見解を踏まえて津波高の試算などすれば、遅くとも02年末ごろまでには敷地を超える大津波到来の可能性を認識できたとしました。
さらに「長期評価」公表後の原子力安全・保安院(当時)や東電の対応について「『長期評価』の見解による想定津波の試算が行われれば、喫緊の対策措置を講じなければならなくなる可能性を認識しながら、そうなった場合の影響の大きさを恐れる余り、試算自体を避け、あるいは試算結果が公になることを避けようとしていたものと認めざるを得ない」と断じています。
判決は、国の賠償責任の範囲を指摘した箇所で、「原発の設置・運営は、原子力利用の一環として国家のエネルギー政策に深く関わる問題」だとして、国の責任の範囲を限定することは「相当ではない」としています。推進政策を採用した国は今回の判決を尊重し、事故を真摯(しんし)に反省し、原発頼みから転換すべきです。
(原発取材班)
(「しんぶん赤旗」2020年10月1日より転載)