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対談 原発事故10年(1) 元中央大学教授(核燃料化学) 舘野淳さん 元日本大学准教授(放射線防護学) 野口邦和さん

2号槻原子炉格納容器底部から数個の小石状の核燃料デブリ(1センチメートル程度)を調査機器でつかんで持ち上げた様子。東京電力は2021年中に試験的な取り出しを実施する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症拡大により1年程度遅れる見込み。1~3号機のデブリ総量は推定600~1100トンに上ります=2019年2月(東京電力提供)

舘野 最近の調査でも新事実判明

野口 遅れに遅れている廃炉工程

 東京電力福島第1原発事故の発生から10年―。いまだ廃炉の道筋もみえない状況です。事故前から原発の危険性について警鐘を鳴らしてきた舘野淳・元中央大学教授(核燃料化学)と野口邦和・元日本大学准教授(放射線防護学)が、事故の状況や復興、原子力政策について語り合いました。

 ―事故の現状をどうみていますか。

 野口 廃炉工程は遅れに遅れています。

 順調に進んだのは4号機の使用済み核燃料プールからの燃料取り出しだけです。3号機はトラブルが多発し遅れ、ようやく先月に取り出しが完了しましたが、1~2号機はまったくできていません。

 2021年末までに全部取り出す計画でした。デブリ(原子炉から溶け落ちた核燃料)の取り出しが控えているから、その前にということでしたが、1号機の取り出し開始は27~28年度、2号機は24~26年度の予定。まるで遅れています。

 舘野 デブリは、4年前から写真を見ることができるなど、調査が進んでいます。

 野口 化学分析もするでしょうが、冷えてどこかにこびりつき、均一に混合しているわけではないでしょう。

野口邦和さん

1時間いれば死亡

 舘野 餅のようにくっついたものや、小石のようなものですね。小石状でザラザラしていれば、すくい取ることができるかもしれません。ただ溶融した炉心の近くは、1時間もいれば人が死んでしまうほど高い放射線量です。その前提で取り出さなければいけない。

 野口 地下水の問題もあります。いまだに1日140トンも原子炉建屋に流れ込み、汚染水を増やしています。敷地の舗装、建屋周囲や上流側の井戸からの地下水くみ上げ、凍土遮水壁…。考えられる手段はほぼやり尽くしたのに、なかなか減らない。現場は大変な状況です。

 舘野 原子力規制委員会の最近の事故調査分析で、大量の放射性物質の付着も新たに分かりましたね。

 野口 原子炉格納容器の上部にある蓋(ふた=シールドプラグ)のところに、環境に漏れ出た量の何倍もくっついていた。これが環境に出なかったのは不幸中の幸いだったといえるでしょうね。

 舘野 排ガス系の配管にも付着していた。そういうものがあると解体は難しく、廃炉の妨げになります。うまく放射線を浴びないように作業できるのか見当もつきません。高濃度放射性物質の付着の原因は、ベント配管が途中で途切れているためであることが最近判明しています。

舘野淳さん

制御できない下で

 ―10年を振り返ってどう思いますか。

 野口 福島県の避難者は、地震・津波による避難も含め最大16・5万人。今年1月になっても3・6万人が避難しています。これは県の発表ですが、もっと多いという人もいます。

 除染が進んだ地域では、空間線量率も下がって自然界のレベルに近づき、事故前の生活に戻りつつあります。でも帰還困難区域では除染が行われておらず、自然減衰以上にはあまり下がっていません。

 私は、大学で放射線施設の監督を24年間やってきました。大学では放射性物質が制御できている状態で管理するのに対し、福島の事故では、大規模に放射性物質が環境に漏えいし放射性物質が制御できていない下で管理する。質が全く違います。私自身の専門性が試され、鍛えられた10年間でした。

 原発事故に警鐘を鳴らしてきましたが、原子炉3基が同時に炉心溶融し、10万人以上が避難する事故が起こった。旧ソ連チェルノブイリ原発事故(1986年)があったにしても、よもや日本でこれほどの事故が起こるとは想像しませんでした。

 舘野 私も、自分の生きている間にこれほどの事故が起こるとは思ってもみなかったですね。旧・原子力研究所で研究していたころから原発問題に首を突っ込み、所内で目の敵にされていました。原子力開発が進められ、私たちは、万一事故が起こったら国民の信頼を失うと昔から警告してきました。

 科学者は、自分の科学的知識を正直に言う以外にない。「曲学阿世」(きょくがくあせい=学問の真理に背いて世間に気に入られる説を唱えること)という言葉がありますが、逆風が吹いても、言うべきことは、科学に忠実に発言しなければいけないと思いました。

 (つづく)

(「しんぶん赤旗」2021年3月7日より転載)