全国で次々とすすむ石炭火力発電所の新規建設計画が計48基(2350万キロワット)に上り、これらが全て稼働した場合、推計で年間約1億4100万トンの二酸化炭素(CO2)が排出されることが、11月26日までに分かりました。「脱炭素」に向かう世界の潮流に逆行するものです。
(野村説)
1998年の設立から石炭火力発電の動向を注視してきた環境NPO(非営利法人)「気候ネットワーク」が、一目でわかる「石炭発電所新設ウオッチ」をホームページで公開しています。
建設計画は、とりわけ福島県や兵庫県、東京湾に集中しています。神戸製鋼神戸製鉄所が神戸市灘区の溶鉱炉跡地に建設を計画する130万キロワット(65万キロワット×2基)の石炭火力発電所もそのうちのひとつ。同発電所から20キロ圏には約4900人の大気汚染の公害病患者が住んでいます。
「神戸公害患者と家族の会」の川野達雄会長(65)は、高度成長期にもたらされた工場からのばい煙や自動車排ガスによって、15歳からぜん息に苦しんできました。「吸入や静脈注射で一時しのぎはするものの、一日中、呼吸困難に悩まされ、仕事も辞めざるをえなかった」と話します。
川野さんは、今月末から始まる気候変動対策の国連会議COP21を前に、「石炭を燃やせばCO2だけでなく、人体に有害な化合物や水銀も排出される。新たな石炭火力発電所をつくらせないために、いま反対の声を強めなければ」と話します。
「石炭発電所新設ウオッチ」 http://www.kikonet.org
石炭発電推進の安倍政権・・海外から「悪影響」と批判
世界ではいま、温室効果ガス削減のために「脱炭素」の大きな流れが起きています。
英国では今月(2015年11月)、2025年までに石炭発電所の「全廃」方針を明らかにしました。米国では、既存・新規の発電所にC02排出規制を導入。フランスでも発電所の閉鎖が進められています。
一方、安倍政権は石炭を原発と並ぶ「重要なベースロード電源」とし、推進する姿勢を見せています。2030年時点の電源構成では石炭による発電を26%とし、再生可能エネルギー(22〜24%)よりも高く位置づけるありさまです。
英シンクタンクE3Gはこうした日本の姿勢を、G7(先進7カ国)の中で唯一、石炭発電所を新設するなど「孤立」し、「国際的にも悪影響」を及ぼしていると指摘しています。
環境や次世代に禍根を残す・・気候ネットワーク 平田仁子(きみこ)理事
石炭火力と原発は、ベース電源として原則常時稼働する大出力の電力システムという点で似ています。日本政府は、これまで共存しあうこの原発と石炭火力発電の両方を推進してきました。石炭と原発は、利益団体の多くが重なり、再生可能エネルギーの新たな事業参入を阻む構造ができあがっています。
地球の気温上昇を産業革命期以前(1850年頃)に比べ「2度未満」に抑えることが国際的合意になっていますが、石炭火力発電は二酸化炭素の排出源として最たるもので、その排出量は天然ガスの約2倍に相当します。世界の先進国が「脱炭素」へと舵(かじ)をきるなか、それに逆行する日本の姿勢は際立っており、問題視されています。
発電所の運転は通常40年を超えます。この計画が遂行されれば、2060年ごろまで二酸化炭素や各種有害物質を排出し続けることになり、環境や次の世代に償いようのない禍根を残すことになります。計画を中止すべきです。
日本は再生可能エネルギーの条件に憲まれており、太陽光や風力、バイオマス、小水力など地理的条件を生かした方法で十分な電力を生み出すとができます。
気候変動を抑制し、化石燃料や原発に依存しない持続可能な社会システムヘの取り組みが、いまほど望まれている時はありません。
(「しんぶん赤旗」2015年11月27日より転載)