東京電力は10月26日、福島第1原発の港湾部に設置した海側遮水壁の閉合を完了したと発表しました。今後、陸側の地下水位の監視や海水の分析を続け、止水効果を確認したいとしています。
海側遮水壁は、放射性物質で汚染された地下水が海に流出するのを防ぐため、1~4号機の護岸を全長780メートルにわたって鋼鉄の壁で囲うもの。2012年4月に建設を開始しました。昨年夏までに約10メートルの開口部を残してほぼ完成していたものの、開口部を閉合するための前提とされた「サブドレン計画」の見通しがたたず工事を中断。条件が整った今年9月10日に工事を再開していました。
工事再開から同月22日にかけて、開口部の海底に長さ約30メートルの鋼管矢板9本を打ち込む作業を実施。さらに止水性を高めるため、19カ所の継ぎ手の内部にモルタルを注入する作業を今月から始め、26日にすべての作業が終了しました。今後、遮水壁の陸側を埋め立てるとしています。
同原発では、山側からくる地下水や雨水が1~4号機の周辺で汚染され、海側に流れています。東電の推定によると、最近では海側遮水壁の開口部を通じて、放射性セシウムが1日当たり16億ベクレル、全ベータ(ストロンチウム90などベータ線を出す放射性物質)が同70億ベクレルが海に流出していました。海側遮水壁の完成で、汚染地下水の海洋流出が、1日当たり約290トンから同10トン程度に減ると、東電は説明しています。
解説・・地下水位の制御 最大課題
事故から4年半―。ようやく完成した海側遮水壁は、汚染水対策にとって大きな一歩といえます。しかし新たな課題や多くの困難が残されています。
最大の課題は、地下水の水位管理です。海側遮水壁が地下水をダムのようにせき止め、放っておくと上流の地下水位が上昇します。
地下水位が高くなりすぎると、建屋への地下水流入が増加し、建屋内の高濃度汚染水の量を増やしてしまいます。逆に、建屋内の汚染水より地下水の水位が低くなると、高濃度汚染水が建屋周辺の地下に逆流する最悪の事態を引き起こします。
東京電力は、1~4号機の建屋周辺の井戸(サブドレン)41本と護岸の井戸(地下水ドレン)5本で地下水をくみ上げるとともに、地下水位が下がった場合には注水して、水位を制御するとしています。サブドレンの稼働によって、高濃度汚染水の増加が抑制される効果も期待されます。
しかし、サブドレンが稼働した9月以後の地下水位データは、場所による水位のばらつきを示し、建屋への流入抑制効果も不明。原子力規制委員会の検討会で、地層の厚さや粒子サイズといった地下の状態が場所ごとに異なっている問題や局所的な水位管理の必要性が指摘されるなど、困難さが次第に明らかになりつつあります。
一方、排水路を通じて汚染された水が海に流出し続けている状況はなおも続いており、とくに降雨時には国の放出基準(告示濃度限度)を大きく上回る濃度の汚染水が海に流れ出ているのに、打つ手がないのが現状です。
汚染水タンクは増え続け、配管からの漏えい事故も後を絶ちません。1~4号機周辺の地中を凍らせる「凍土遮水壁」計画も試験段階で停滞しています。
汚染水問題の解決には、まだまだ長い道のりが待っています。
(中村秀生)
(「しんぶん赤旗」2015年10月27日より転載)